仏間の押し入れの箱から書類の束、衝撃の中身

確認を進めていた直樹さんは、仏間の押し入れの菓子箱の中から書類の束を見つけました。年金の通知書や火災保険の証書に混じり、目に留まったのが「取引残高報告書」と印字された、証券会社から届いた書類でした。

父が勤めていた会社の株式。最新の日付の書類を見ると、評価額はなんと「約1億4,000万円」。直樹さんは思わず大声を上げそうになりました。

古い報告書をめくると、以前の評価額は1,000万円台でした。父の貞夫さんは、22歳で地元メーカーに入社し、60歳の定年まで38年間勤め上げた「普通のサラリーマン」でした。30代から従業員持株会に加入し、毎月5万円程度をこつこつ積み立て、定年後も株式を売らずに20年近く保有した自社株投資が、株価の上昇とともに育っていたのです。

「父さん、これの記憶はあったんだな」

父が言った「金はたんまりあるぞ!」が本当だったことを、ここで直樹さんは理解しました。

「これなら、父さんに手厚い介護を受けさせてあげられるし、母さんの生活も安心だ。使わずに置いておいてくれてありがとう……」

このほか、自宅(評価額約2,500万円)、そして父が加入していた終身保険。銀行預金類を合わせると、両親の世帯資産は約1億8,000万円に達しそうです。年金は父と母で月22.5万円。資産だけ見れば、お金の不安とは無縁のはず。

しかし「1億8,000万円ある」ことと、「今すぐ使える」ことは別でした。

現金化しようにも、指一本触れられない現実

直樹さんは取引残高報告書を手に証券会社に電話しました。すると、担当者はこう告げました。

「口座からは動かせません。ご本人の意思確認ができない以上、ご家族であっても売却や出金の手続きを進めていただくことはできません」。そして、「法定後見制度なら、後見人による手続きが可能です」とも説明しました。

保険も同じ壁でした。父が55歳で加入した終身保険の解約を相談すると、「解約には契約者ご本人様の意思確認が必要です。契約者代理特約があれば代わりに手続きできましたが、今回のご契約にその特約はございません」という回答でした。

資産は1億円以上あるのに、実際にはほとんど使えない。直樹さんは、資産と現金が別物だと、初めて実感したのです。