年金の受給開始を遅らせる「繰下げ受給」は、「何歳で元が取れるか」という損得勘定で語られがちです。しかし、老後の不測の事態に備える視点も欠かせません。ある男性の事例から、自分の生活に合った受給時期の見極め方を考えます。
「年金を繰り下げてよかった」〈年金月25万円・70歳男性〉、病床で「自分の判断が正解だった」と笑顔のワケ ※写真はイメージです/PIXTA

70歳まで繰下げ受給を選択した男性の答え

山本さんの妻・美智子さん(67歳・仮名)の老齢基礎年金は月額7万円ほど。70歳から受給を開始した山本さんの年金、月25万円ほどと合わせると、世帯の年金収入は月32万円ほどになります。手取りにすると月27万円ほどです。

 

一方、毎月の支出はどうだったでしょうか。山本さんの入院費用やリハビリ代(高額療養費制度適用後)などの医療・雑費が毎月約14万円。自宅で暮らす妻の食費や光熱費などの生活費が月額12万円。世帯の月間総支出はおよそ26万円でした。

 

もし山本さんが周囲の勧めに従い、65歳から年金(17万7,000円)を受け取っていたら、手取りは月21.4万円ほどなので、月4万〜5万円の赤字になる計算です。1,000万円近い貯蓄があっても、徐々に減っていく通帳残高を眺めては恐怖を覚えていたことでしょう。

 

しかし、繰下げを選んだ山本さんは、医療費も生活費もすべて毎月の年金収入だけで完全に賄え、貯蓄には1円たりとも手を付けずに済んでいるといいます。

 

「損得勘定で考える人もいますが、私は繰下げて良かったと思っています。とりあえず、今のままが続くなら、貯蓄が減っていくと怯えなくていいんですから」と山本さんは笑います。

 

妻の美智子さんも「もし毎月赤字だったら、病院代を払うたびに『来月はどうしよう』と夜も眠れなかったはず。貯金を減らさずに治療に専念できることが、今はどれほどありがたいか」と安堵の表情を浮かべます。

 

年金の受給時期の選択は、資産状況や家族構成、健康状態によって人それぞれです。世間の風潮や周囲の損得論だけに安易に流されて判断すれば、人生の予期せぬ危機に直面したとき後悔することになりかねません。自らの資産背景や価値観を今一度確認し、自分にとって何が最善なのかを慎重に選択することが重要です。