「住宅ローンさえ払い終えれば、老後の住まいは安心」――多くの人のライフプランに根付いているイメージでしょう。苦労して住宅ローンを完済し、老後を迎えたAさん夫婦も、そうでした。ところが、ある思わぬ出来事をきっかけに、二人は長年守ってきた「終の棲家」を手放し、家賃28,000円の公営住宅へ移ることを決めます。いったいなにがあったのか。本記事ではFPオフィスツクル代表・内田英子氏が、Aさんの事例とともに、老後の住まいをめぐる、見過ごされがちな落とし穴について解説します。
「まさか家賃2万8,000円の公営住宅に住むことになるとは…」年金月22万円・74歳夫婦、“ローン完済の一戸建て”を手放した〈想定外すぎる理由〉【FPが解説】
「マイホームでこのまま暮らす」ことだけを基準にしない
老後の住まいを考える際は、持ち家か賃貸かといった「かたち」から入るのではなく、暮らし全体が無理なく続くかを見ることが大切です。
必要な介護や医療を選べるか。車を運転できなくなっても生活できるか。夫婦のどちらかが一人になっても家を維持できるか。住み替えや家財整理を自分たちだけで進められるか。難しい場合、誰に相談ができるか。住まいは、介護や家族関係、家計、地域のサービス、将来の施設入居まで含めて考える必要があります。
家は、財産のなかで最も大きく、最も目に入りやすい存在です。だからこそ私たちは、老後の安心を考えるとき、つい「家でこのまま暮らす」という家を維持する視点に引っ張られてしまいがちです。しかし、今回の危機でAさん夫妻の暮らしを支えたのは、持ち家ではありませんでした。困ったときに力を貸してくれる家族や事情を相談できる相手、周囲を頼り、これからのために自分たちも行動しようという自身の決断。暮らしを本当に支えているのは、こうした埋もれがちな財産のほうなのかもしれません。
家を手放すことは、これまでの人生を否定するものではありません。いわば、暮らしの変化を取り込んだ住み方のアップデートです。老後の安心とは、家を持ち続けることだけではなく、暮らしの変化に応じて、必要な助けや住まいを選び直せることなのではないでしょうか。
〈参考〉
一般職業紹介状況(職業安定業務統計)第21表
総務省 令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/kihon_gaiyou.pdf
内田 英子
FPオフィスツクル代表