「住宅ローンさえ払い終えれば、老後の住まいは安心」――多くの人のライフプランに根付いているイメージでしょう。苦労して住宅ローンを完済し、老後を迎えたAさん夫婦も、そうでした。ところが、ある思わぬ出来事をきっかけに、二人は長年守ってきた「終の棲家」を手放し、家賃28,000円の公営住宅へ移ることを決めます。いったいなにがあったのか。本記事ではFPオフィスツクル代表・内田英子氏が、Aさんの事例とともに、老後の住まいをめぐる、見過ごされがちな落とし穴について解説します。
「まさか家賃2万8,000円の公営住宅に住むことになるとは…」年金月22万円・74歳夫婦、“ローン完済の一戸建て”を手放した〈想定外すぎる理由〉【FPが解説】
「お米がなくなっている…」自宅なのに、安心して暮らせない
「まさか、この家を出ることになるとは思いませんでした」
ともに74歳のAさん夫妻は、40年前に購入した一戸建てで暮らしていました。年金収入は2人合わせて月22万円ほど。「家を持って一人前」という空気が強かった時代に、当たり前のこととして購入した庭付きのマイホーム。金利が高く、返済に苦労した時期もありましたが、繰上げ返済を重ね、当初30年で組んだ住宅ローンを無事に完済しました。長い年月をかけて守ってきた家は、二人にとって人生の勲章のような存在でした。贅沢な暮らしはできませんが、住み慣れた我が家で穏やかな日々を過ごしていたのです。
ところが、60歳を過ぎたころ、Aさんはある病気と診断されます。病状が進行するにつれて介護が必要となり、夜間のサポートも含め、複数の介護サービスを受けることに。介護サービスから受けられるサポートは、Aさんを日々支える妻にとっても、とても貴重なものでした。
そんなある日、家にストックしていたお米がなくなる事件が起きました。最初は、「どこかへ移したのかもしれない」「私たちの思い違いではないか」と考えました。しかし、その後もペットボトルの飲み物や、新品の日用品がなくなることが続きます。
あとから、訪問介護サービスを受けたあとに決まってなくなっていることに気づきました。出入りしていたのは一人ではないため、誰が持ち去ったのかは、はっきり確認できたわけではありません。
自宅は、本来もっとも安心できる場所です。自宅に人を入れるたびに不安を感じるようになったAさん夫婦は、家族に相談し、ケアマネジャーへ詳しい事情は伝えないまま、担当者を替えられないか尋ねました。
しかし、地域では介護の担い手が不足しており、担当者を替えると、これまでどおりのサービスが難しくなる可能性があるとの回答が。
「あの人には来てほしくない。でも、断れば必要な介護を受けられない」。あまりにもつらい現実に、Aさん夫婦は涙を流しました。
「子どもたちに迷惑をかけないように、二人で暮らしたい」。そう考えてきた夫妻でしたが、安心して介護を受けられない以上、この先の見通しが急に真っ暗になりました。二人を心配して駆けつけてくれた長男夫妻には、ケアマネジャーに本当のことを話してみたらといわれたものの、状況が変わるとは思えませんでした。もし恨まれてあらぬ噂でも立てられたら、と考えると恐ろしくてたまりません。Aさん夫婦は、子どもたちと話しあったうえで自宅を売却し、長男家族が住む家へ身を寄せることになりました。