“自慢の息子”の7年後、とっくに就職しているはずが…

東大へ入学してから7年。同級生たちは大手企業や官公庁、研究機関などへ就職し、それぞれの道を歩み始めていました。その中で、一人だけ学生生活を続けていたのが、亮太さんでした。

きっかけは大学時代、友人に誘われて訪れたサーキットでした。初めて見たレースの迫力に心を奪われ、そしてベテランドライバーの横に同乗させてもらったことがきっかけで、自らも競技へ挑戦するようになります。

奨学金を利用して中古車を購入し、アルバイト代は改造費やタイヤ代、遠征費、大会参加費へ。授業は次第に欠席が増え、大学よりもアルバイトでお金を稼ぎ、練習場の小さなサーキットへ通う日々が続きました。

亮太さんは幼い頃から何事も吸収が早く、車の運転でも驚異的な集中力を発揮。学生ながら公式競技で好成績を残すように。しかし、それは同時に大学卒業が遠のくことも意味していました。大学2年生から授業を休みがちになり、単位を取得できず卒業のめどはたっていません。

「いったいいつまで学生をやるつもりなんだ。頼むから卒業してくれ」

武さんがそう言っても、「ごめん、あともう少しだけ」 。亮太さんは決まってそう答えます。

その「もう少し」が1年、また1年と積み重なり、気付けば入学から7年が過ぎていたのです。

「退学したらどうか」とはいえない…複雑な本音

授業料(入学金含む)や教科書代、家賃や光熱費、生活費などの仕送り、そして帰省費まで。この7年で亮太さんに投じた金額は800万円に達していました。

「国立なので学費は私立より安い。それでも一人暮らしなので仕送りが高くて……。本当に厳しい状況です」

武さんは年収350万円、将来受け取れる年金は夫婦合わせて月約27万円の見込みです。武さんの退職金も500万円程度と多くはありません。現在の貯蓄は、5年前に公務員を退職した妻の退職金の残り約500万円のみです。

決して余裕があるわけではない中、家賃を払い、生活費を送り、学費を負担し続ける日々。好きなことに夢中になっている息子を応援したい気持ちもありましたが、自分たちの老後も守らなければなりません。

「もう退学させたほうがいい」――そんな思いもよぎりました。しかし、「東大中退」と「東大卒業」はまったく違います。東大への進学率は0.3%ともいわれます。そんな狭き門をくぐって、日本一の大学に入った自慢の息子。きちんと卒業して、人並み以上の仕事についてほしい。そんな本音もありました。

さまざまな思いを抱えながら、武さん夫妻は「親としてどこまで支援すべきなのか」という重い問いに向き合うことになったのでした。