年金生活が始まったというのに、重すぎる住宅ローンで老後が不安な日々。「退職金を増やして完済したい」――そんな思いが、人生を大きく変えてしまったとしたら? 当時65歳の男性がはまった泥沼の事例から、老後資金を「増やす」ことより「守る」ことが大切な理由を、FPの三原由紀氏の解説とともに見ていきましょう。
(※写真はイメージです/PIXTA)
「家を失った。でも、これでよかった」…購入から21年、“住宅ローン完済”を断念した66歳男性がポツリ。移り住んだ〈家賃3万7,000円・都営住宅〉の一室で【FPが解説】
お金を増やせるはずが…息子に「300万円貸してくれ」
きっかけは「初心者でも資産運用」「プロが銘柄を教えます」というSNS広告でした。
「自分でもお金を増やせるのではないか、でも、そんなうまい話があるか?」
半信半疑でLINEグループに参加し、最初は試しに数万円だけ。確かに利益が出て、それを引き出すこともできました。今度は数十万円。画面上の数字は日を追うごとに増加します。「本当に増えている」――そう信じ込んだ佐々木さんは、その後も勧められるまま送金を重ね、気付けば総額は約1,900万円にのぼっていました。
しかしある日、「利益を引き出すには、あと300万円の保証金が必要です」というメッセージが届きます。焦った佐々木さんは、すがるような思いで長男へ電話をかけました。
「300万円だけ貸してくれないか……」
長男は、何かを感じ取ったのでしょう。自分の父は、そんなことをお願いするような人ではないと知っていたからです。夜中にも関わらず佐々木さんの元に駆け付けた長男は、送金履歴を確認。佐々木さんのスマートフォンに残るLINEのやり取りを見た瞬間、静かに言いました。
「父さん、これは投資じゃない。詐欺だよ」
警察庁によると、2025年のSNS型投資詐欺の認知件数は9,523件、被害額は約1,288億円に上り、いずれも過去最多となりました(※)。利益が出ているように見せかけ、追加送金を繰り返させる手口が特徴です。
もし入金をする前に、「これどう思う?」と長男に聞けていたら、その場であっさり詐欺だと言われ、被害を回避できていたかもしれません。しかし、普段は別々に暮らす長男や長女と、そんな会話をするタイミングはありませんでした。妻を亡くし、退職後は人と会う機会もほとんどなくなったなかで、佐々木さんを止める人は、いなかったのです。