「誰かが盗んだのよ!」…有料老人ホームで消えた82歳母の〈50万円の指輪〉

「まさか、セキュリティのしっかりした施設でこんなトラブルが起きるなんて、思いもしませんでした」

都内に住む会社員のケンジさん(仮名・55歳)は、半年前に82歳になる母親・タエコさん(仮名)を民間の介護付き有料老人ホームに入居させました。入居一時金も月額費用もそれなりにかかりましたが、スタッフの手厚いケアに安心し、母親を任せていました。

そんなある日のこと。タエコさんが大切にしていた形見の指輪が部屋からなくなっていることが判明しました。その指輪は亡くなった夫からもらった50万円相当の指輪で、長年大事に保管していたものです。

「あの引き出しにしまったはず! 誰かが盗んだのよ!」

母親は強く主張しましたが、認知症の初期症状があるため、ケンジさんも最初は母親の勘違いかもしれないと取り合っていませんでした。

しかし、スタッフと一緒に部屋の隅々まで探しても、指輪は見つかりません。

数日後、事態は思わぬ方向へ動きます。同じフロアに入居している別の高齢女性の部屋から、母親の指輪が見つかったのです。その女性は重度の認知症を患っており、他の入居者の部屋にふらりと入り込んでしまう徘徊の症状がありました。

「指輪が戻ってきたのはよかったです。でも納得いかなかったのは、その後の対応です」

認知症トラブルで55歳息子が抱える「やり場のない思い」

「相手の女性は自分が指輪を持ち出したという認識すらなく、話し合いどころではなかったんです」

ケンジさんが施設側に管理責任を問うと、施設長からは謝罪とともに、再発防止策として部屋の施錠ルールの徹底を提案されました。また、もし今後ものが紛失し見つからなかった場合は、個人間の示談ではなく、施設が加入している損害賠償責任保険を利用して補償する方向で検討すると告げられました。

「認知症の方を責めることはできません。でも、被害を受けた側のモヤモヤした気持ちはどこにぶつければいいのか。親を施設に預けるということは、こうしたリスクも引き受けることなのだと痛感しました」

ケンジさんは、施設の対応には一定の理解を示しつつも、高齢者同士のトラブルにおける責任の所在の難しさに複雑な思いを抱えています。