厚生労働省『2024年 国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の多くは公的年金を主な収入源として暮らしています。一方で、離れて暮らす子どもが生活を心配し、定期的に仕送りを続ける家庭も少なくありません。しかし、そのお金が親にとって本当に必要なものなのか――ある親子の事例を通して、その実態をみていきます。
「毎月5万円の仕送りなんて、意味なかったな」72歳母が急逝。1年ぶりに実家を訪れた49歳息子が「15年間続けた援助」を後悔したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

母の急逝で知った15年目の真実

悲劇は突然起こります。72歳だった母は、自宅で倒れ、そのまま帰らぬ人となりました。病気らしい病気もなく、本当に突然のことだったといいます。

 

葬儀を終えたあと、父はほとんど話しません。実家には一人で残ることになりました。健一さんは月に一度は顔を出しようと思いましたが、仕事もあり、実際に訪ねたのはそれから約1年後でした。仏壇に線香をあげたあと、父が押し入れを開けます。

 

「これ、持っていけ」

 

段ボール箱が三つ。中には何冊もの銀行の通帳と、封筒が入っていました。通帳を見た健一さんは思わず声を失います。15年間、自分が送り続けた毎月5万円。その金額とほぼ同じ額が、毎月そのまま積み立てられていたのです。

 

一度も引き出された形跡はありませんでした。残高は約910万円。封筒には母の字でこう書かれていました。

 

「健一へ」

 

中には現金50万円と、一枚の便箋が入っていました。便箋には長い文章はありませんでした。

 

「毎月ありがとう。これはあなたのお金です。子どもたちのために使ってください」

 

健一さんは父を見ました。

 

「どういうこと?」

 

父は静かに答えます。

 

「母さんの気持ちだ」

 

父の言葉を受けて、健一さんは深い後悔の念に駆られました。

 

「私はお金を送ることで親孝行した気でいました。むしろお金を送っているのだから、それ以上のことはしなくてもいいと考えていた。お金が使われていないなら、意味ないですよね。今さらながら、仕送りを免罪符代わりにしてきた自分に、このとき気づきました」

 

内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、日本のシニアが生きがいを感じる時のトップは「子どもや孫など家族との団らんの時」で、半数以上の53.6%に上ります。親にとって一番の喜びは、毎月の5万円ではなく、息子からの「今月も送ったよ」という一本の電話だったのかもしれません。