止まらぬ物価高などを背景に、「貯蓄」や「老後資金」に不安を抱える人は多いでしょう。しかし、お金を使うことに恐怖を覚えてしまうほどとなると、話は変わってきます。高まりすぎた“倹約意識”が、親子関係に深刻な溝を生むことも……。CFPの山﨑裕佳子氏が、70歳の父親と33歳の息子の事例をもとに、行き過ぎた節約意識の危険性と漠然とした不安を解消する方法について解説します。
じぃじ、遊園地連れてって!…孫の誘いを「金のムダ」と切る〈年金月20万円・資産3,000万円〉70歳父。33歳息子が〈絶縁〉を突きつけた日【CFPの助言】
“漠然とした”お金の不安が招いた「親子関係の分断」
このような悲しい結末を迎えてしまった要因は、親子の「お金に対する価値観の違い」にあります。
父のナオキさんは、子どものころにお金で苦労したことがトラウマとなっているのでしょう。「お金がなくなったら、また生活ができなくなるかもしれない」という恐怖心から、お金を使うことができないのです。客観的には十分な資産があるように見えても、ナオキさんにとっては「安心」ではないのでしょう。
一方、ワタルさんの気持ちもきわめて自然なものです。「父さんにとっては家族よりお金のほうが大切なんだ」という思いは、深い失望と孤独感を抱かせます。ワタルさんが本当に欲しかったのは「お金」ではなく「愛情表現」だったのかもしれません。
【CFPの助言】目に見える「数字」が安心材料に…「キャッシュフロー表」作成のススメ
このような事態を回避するには、どのような対処法が考えられるでしょうか。
ナオキさんのように、「預貯金3,000万円」「年金20万円」「一人暮らし」「住宅ローンなし」「扶養家族なし」、つまり、「年金収入>生活費」である場合、預貯金を減らすことなく生活できます。
それでもナオキさんが心配なのは、まとまったお金が必要な「もしものとき」がいつか訪れるかもしれないと思うからでしょう。
たしかに、将来的に入院や介護で施設へ入る場合などを想定すれば、資産を取り崩す可能性があります。しかし、“もしも”を考えすぎてしまってはきりがありません。
漠然とした不安からお金を使えないのであれば、「キャッシュフロー表」を作成してお金の流れを可視化してみることをおすすめします。老後資産が本当に足りるのか数字で確認できれば、ナオキさんにとって大きな安心材料になるはずです。
そのうえで、「子どもや孫のために使う予算」をあらかじめ設定してみてはいかがでしょうか。「毎月〇万円まで」「年間で〇〇万円まで」などと具体的な予算を決めてしまえば、過度に我慢する必要もなくなります。
一方、息子のワタルさんとしては、父親に対して「あの世にお金は持っていけない」というように正論で諭すよりも、たとえば「子どもたちにじいじとの思い出をたくさん作ってやりたい」などと「役割」としてお願いすれば、ナオキさんもスムーズに受け入れられるのではないでしょうか。
「お金」と「人の感情」は密接に絡み合っているからこそ、トラブルの種にもなります。お金は、貯めることだけが正解ではありません。老後生活を充実させるためには、いまある資産の一部を「家族とのかけがえのない時間のために使う」ことも、有効なお金の使い方のひとつです。
FP事務所MIRAI
山﨑裕佳子
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
CFP®