「学歴」より高い、50代という壁

佐藤さんがつまずいた理由を考えるうえで、まず押さえておきたいことがあります。それは、学歴以前に「50代」という年齢そのものが、転職市場では大きなハードルになるという現実です。

厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」によると、男性(パート労働者でない一般労働者)の年齢階級別転職入職率(常用労働者に占める転職者の割合)は以下のとおりです。

・30〜34歳:9.5%
・35〜39歳:7.5%
・40〜44歳:5.9%
・45〜49歳:5.8%
・50〜54歳:4.7%
・55〜59歳:4.3%

30代と比べると、50代で実際に転職する人の割合は半分以下の水準です。年齢を重ねるほど、転職という選択そのものが少なくなっていく様子がうかがえます。

さらに、転職した人の賃金がどう変わったかを見ると、もう一つの転換点が浮かび上がります。同調査で、前職より賃金が「増加」した割合から「減少」した割合を引いた差(男女計)を見ると、50〜54歳ではプラス10.8ポイントと、増えた人が上回っています。ところが55〜59歳ではマイナス9.2ポイントと反転し、給料が下がった人のほうが多くなるのです。

55歳前後を境に、転職すると収入が下がりやすくなる――佐藤さんの年齢は、まさにその境界線上にありました。

では、なぜ輝かしい経歴がプラスに働かないのでしょうか。採用する企業の多くが見ているのは、「即戦力になるかどうか」、つまり会社が変わっても持ち運べる汎用的なスキル(ポータブルスキル)や専門性です。

大企業で順調に出世してきた人ほど、社内調整や自社特有の業務プロセスに最適化されている場合があります。その力は社内では大きな価値を持ちますが、外から見ると分かりにくく、市場価値が低く見積もられてしまう可能性があるのです。

加えて、50代の元エリートが希望しがちな課長・部長クラスやハイクラス求人は、もともと枠が少なく激戦区です。そして企業側は、「過去の肩書きにこだわり、年下の上司や新しいやり方に柔軟に対応できないのではないか」という懸念も抱きがちです。

前職と同じ年収・役職を求めれば、待遇のミスマッチも生じます。学歴や経歴そのものが否定されているわけではなく、こうした複数の要因が重なっているのです。