長年連れ添った夫を見送り、ひとりの老後を迎えたとき、多くの人が頼りにするのが子どもの存在です。しかし、「家族だから大丈夫」「この子なら安心」そう信じて通帳やキャッシュカードを預けた結果、思いもよらない事態に直面するケースもあります。家族だからこそ起こりやすく、周囲にも相談しづらい「身内によるお金のトラブル」。高齢者の財産を守るために知っておきたい対策について、事例とともにCFPの松田聡子氏が解説します。
「家族だから、信じていたのに」…優しい息子に託したキャッシュカード。通帳から忽然と消えた“貯金500万円”に79歳母、愕然【CFPの助言】
国のデータが示す「家族による使い込みの実態」
圭子さんが直面した問題は、決して珍しいケースではありません。同居・近居の家族による高齢者の財産使い込みは、養護者による高齢者虐待の中の「経済的虐待」として、国の統計に現れています。
厚生労働省の「令和6年度 高齢者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査結果」(※1)によると、家族や親族・同居人(養護者)による高齢者虐待の相談・通報件数は41,814件(前年度比3.5%増)と、12年連続で過去最多を更新しました。市町村が「虐待があった」と判断した件数は17,133件にのぼります。
虐待の種別としては、身体的虐待(64.1%)が最多ですが、経済的虐待も全体の16.4%を占めています。また、虐待者の続柄をみると、息子が38.9%と最も多く、娘(19.3%)と合わせると全体の約60%弱にのぼります。同居・近居の子どもによるトラブルが多数を占めることが、データからも裏付けられているのです。
また、同調査の虐待が起きた原因として、虐待者(家族)側からは「介護疲れ・介護ストレス」(57.2%)に次いで、「理解力の不足や低下」(49.6%)が挙げられています。「親の金なんだから、いずれ相続する自分が使っても構わない」という誤った認識から、罪悪感なく使い込みが常態化していくケースが多いとされています。
身内だからこそ解決が難しい…家族間トラブルの過酷な一面
さらに注意が必要なのは、こうした公的データの件数は「氷山の一角」ともいわれている点です。家族間の問題は表沙汰になりにくく、「親の口座から子が日常的に生活費を引き出して、自分のために使っている」というグレーゾーンのトラブルは、介護の現場でより広範に潜在していると考えられています。
子どもによる親の財産の使い込みは、事後解決が難しいことも大きな問題です。親子間の窃盗・横領については、刑法244条の「親族相盗例」により刑事罰が免除されています。民事裁判(不当利得返還請求など)で勝訴することは法律上可能ですが、子どもに返済能力がなければ返してもらうことはできません。
また、子ども側が「親から了解を得ていた」「親のために使った」と主張した場合、無断の使い込みなのか、同意に基づく贈与だったのかを第三者が証明するのは非常に困難です。
そして何より難しいのが、圭子さんのように「これ以上もめたくない」「今後の面倒を見てもらえなくなるのが怖い」という心理から、高齢の親自身が調査や対策を拒んでしまうケースです。使い込まれたお金が戻らない現実と向き合いながら、関係修復を模索しなければならないのが、家族間の財産トラブルの過酷な一面です。
