「吉祥寺があるから豊か」では説明できない

「ベンツやポルシェがずらっと並ぶような街ではないんですよ。でも、医師や大学教授、大企業の管理職の方は本当に多いですね」

吉祥寺駅近くで不動産業を営む男性はそう話す。

東京都武蔵野市の人口は約15万人。2025年の市区町村別所得ランキングでは全国11位に位置し、平均所得は約634万円に達した(ZEIMO「2025年〈令和7年〉市区町村別 所得〈年収〉ランキング」より)。東京都の市部ではトップクラスの水準である。

しかも注目すべきは、その推移だ。2016年の約518万円から2025年の約634万円まで、ほぼ一貫して上昇を続けている。単発的な景気や一部富裕層の流入によるものではなく、長期的かつ安定的に高所得を維持しているのである。

多くの人は「吉祥寺があるからだろう」と考えるかもしれない。しかし、商業施設が集積しているだけで平均所得が上がるわけではない。むしろ武蔵野市の強さは、吉祥寺の繁華街の外側にある。

この街には、高所得者が住み続けたくなる仕組みがあるのだ。

「住みたい街」の先にある“住み続けたい街”

武蔵野市の最大の資産は、井の頭公園や吉祥寺の商業施設ではない。

それらを含めた「生活環境全体」である。

都心へのアクセスは良好。新宿まで約15分、東京駅へも30分程度で到着する。一方で、大規模なオフィス街ではなく、緑地や住宅地が適度に共存している。

地元住民の一人はこう語る。

「若い頃は都心に住みたいと思っていたんです。でも子どもが生まれてからは武蔵野市のよさがわかりました。便利だけど落ち着いているんですよ」

武蔵野市は、毎年のように「住みたい街ランキング」で上位に入る。しかし実は、それ以上に重要なのが「住み続けたい街」であることだ。

住民の多くは、単に通勤のために住んでいるわけではない。この街で子育てをし、この街で老後を迎えることを前提としている。

その結果、高所得層が短期間で入れ替わるのではなく、長期間にわたって定着する。

これが武蔵野市の大きな特徴である。