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過去の金銭トラブルと、息子が放った言葉
哲也さんは理由を突き止めるため、遺贈先に指定されていたNPO法人へ連絡を取りました。そこで担当者から明かされたのは、陽子さんが抱え続けていた「親心」の裏返しでした。
哲也さんには、20代の後半に投資トラブルに巻き込まれ、多額の借金を抱えた過去がありました。当時、陽子さんは自身の老後資金の一部を取り崩し、数百万円の借金を肩代わりしてくれたといいます。現在は大手企業に転職し、一般的な収入を得ていますが、陽子さんは哲也さんの金銭感覚に対する不安を完全に拭い去ってはいませんでした。
また、さかのぼること5年前、父(陽子さんの夫)が亡くなると、いろいろと理由をつけて同居を求めてきたときがありました。このとき、哲也さん家族は子どもの受験などで忙しく、最終的に「親子とはいえ他人なんだから。そんなに頼られても困る」と言い放ってしまったといいます。
「あの時は自分の生活を守るために必死で……いま思えば、随分とひどいひと言だったと反省しています」
NPO法人の担当者によると、陽子さんは数年前から定期的に相談に訪れ、自らの死後の手続きと財産の寄付について準備を進めていたといいます。陽子さんは担当者に「息子は昔からお金にルーズなところがあり、一度大金を持たせて失敗している。だから中途半端にお金を残すのはよくない」と語っていました。
「『本当にそれでいいんですか?』と尋ねると、母は『あの子は赤の他人……みたいなものだから』と笑っていたといいます」
民法上、哲也さんには遺留分として遺産全体の2分の1に相当する額について、「遺留分侵害額請求」を行う権利があります。今回のケースでは、自宅評価額500万円と預貯金1000万円を前提とすると、約750万円に相当します。
「母は私に嫌がらせをしたかったわけではない。私の将来を心配しての決断。尊重してあげたい。ただ何も言わなかったのは、私が言った“他人”という言葉のせいではないかと。そう思うと、生きている間に、ちゃんと謝りたかった――それだけが心残りです」