親が子に財産を「相続させたくない」と考えるケースが増加しています。その背景にあるものとは。母の遺産1,000万円の全額寄付に直面したある男性のケースを通し、現代の親子関係のリアルをみていきます。
「あの子は赤の他人だから」78歳で孤独死した母から「絶縁宣言」…〈遺産1,000万円〉まさかの行方に52歳ひとり息子、絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

遺品整理で見つかった、全額寄付の公正証書

東京都内・大手企業に勤務する佐藤哲也さん(52歳・仮名)は、半年前、埼玉県内で一人暮らしをしていた母・佐藤陽子さん(78歳・仮名)を亡くしました。死因は心不全。発見されたときには死後3日が経過していました。

 

葬儀を終え、実家の遺品整理を進めていた哲也さんは、仏壇の引き出しから一通の封筒を見つけました。中に入っていたのは、公証役場で作成された「公正証書遺言」の謄本でした。そこには「全財産を特定のNPO法人へ遺贈する」と明確に記されており、哲也さんの名前はありませんでした。

 

陽子さんが遺した資産は、自宅のほか、預貯金が約1,000万円にのぼります。一人息子である哲也さんは、当然自分がすべてを相続するものと考えていました。そこには恨み言が書かれた手紙などは一切なく、ただ事務的な手続きが完了したことを示す書類だけが残されていました。

 

「一人息子だから最後は自分がすべてを引き継ぐと、完全に高を括っていました。なぜ実の息子である私に何も遺さず、全額を寄付してしまったのか。まるで絶縁された気分で、最初はまったく理由が分かりませんでした」

 

日本公証人連合会の発表によると、2024年(令和6年)に全国で作成された遺言公正証書は12万3,891件にのぼり、高水準で推移しています。また、法務省の「自筆証書遺言書保管制度」も、2020年の創設からわずか5年で申請件数が10万件を突破しました。生前に自らの財産の行先を法的に確定させる高齢者は確実に増加しています。

 

金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査 2025年(二人以上世帯)』によると、遺産に対する考え方は、「子どもに残す」派が約半数(50.7%)を占めており、その内訳は「老後の世話や家業に関わらず残す」(31.8%)や「世話をしてくれるなら残す」(15.1%)などに分かれています。

 

一方で、「自分たちの人生を楽しむために使い切りたい」と考える派も約3割(28.6%)。ただし、現在の金融資産の保有目的として「遺産として子孫に残す」ことを積極的に挙げた世帯は、全体の7.0%にとどまっています。

 

陽子さんが生前に作成した公正証書遺言は、遺言者に十分な意思能力があることを公証人が対面で確認した上で作成されます。つまり陽子さんの選択は一時的な感情や病気によるものではなく、極めて理性的な判断のもとで行われたことを意味していました。