令和7年版高齢者社会白書によると、65歳以上の人がいる世帯のうち、三世代が同居している世帯の割合はわずか7%です。このように核家族化が進む一方、なかには“新しい形の同居”を模索する人も……。75歳男性と息子夫婦の事例をもとに、家事労働に報酬が発生するいわば「雇用同居」の実態と、そこに潜む問題点をみていきましょう。
お義父さん、私を雇ってもらえませんか?…年金月16万円の75歳男性が、45歳“長男の嫁”から受けた「まさかの提案」【CFPの警告】
「雇用同居」の3つの注意点
実は、マスミさんの提案はいくつか注意すべき点が存在します。
1.介護が必要になった場合、手つかずの「1,000万円」が数年で底をつく
まず、介護費用の実態を確認してみましょう。生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(2人以上世帯)」(2024年度)によると、介護にかかる費用は主に下記のとおりです。
・一時的な費用:平均47.2万円
(住宅リフォームや介護用ベッドの購入など。公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)
・月々の費用:平均9.0万円
(在宅介護:平均5.3万円、施設介護:平均13.8万円)
・介護期間:平均4年7ヵ月
同居するにあたって、タダシさんが仮にマスミさんへ月10万円を支払うとすると、年間で120万円、5年間では600万円の支出です。ここに将来の介護費用が加われば、預金1,000万円は数年で底をつく可能性があります。
一方、現在のタダシさんの「年金収入の余剰分」をマスミさんへの給与として充てられるのであれば、家計としては大きく崩れません。
預金1,000万円は“最後の砦”として、将来の医療費・介護費に備えて確保しておくことが望ましいでしょう。
2.お互いの「期待値のズレ」に注意
また、給与が発生することで、双方の期待値にズレが生じる可能性がある点にも注意が必要です。
タダシさんとしては「給与を払っているのに家事の質が期待より低い」と感じるかもしれませんし、逆にマスミさんとしても「もらっている金額以上の家事や介護を求められている」と不満を抱く可能性もあります。
家族間で金銭のやり取りが発生すると、「仕事」と「家族としての助け合い」の境界が曖昧になりやすく、同居生活がギクシャクする恐れがあります。
3.税務署から「実質的な贈与」とみなされるリスク
毎月まとまった入金があると、通帳の動きだけを見た税務署から「実質的な贈与」とみなされ、贈与税を課されるリスクがゼロではありません。税務トラブルを防ぐためにも、雇用契約書を作成して労働の実態を証明できるようにしておきましょう。
なお、マスミさんの希望額(月10万円・年120万円)であれば問題ありませんが、正当な給与とする場合、扶養内で働くのであれば所得税の壁(178万円)や社会保険の壁(130万円)にも注意が必要です。
