年賀状が3枚だけ…息子が気づいた「本当の原因」

その夜、健一さんは実家に泊まりました。テーブルの隅にある年賀状の箱を何気なく開けてみると、教え子からの年賀状はわずか3枚。父が現役の頃、正月には束になった年賀状を「今年は300枚以上だ」と嬉しそうに読み上げていたものです。

ふと、父の言葉がよみがえりました。

「『投資の先生』は週に一度、家まで来てくれた。お茶を飲みながら話をした」

健一さん自身は、月に一度しか電話していませんでした。詐欺師は毎週訪れ、「先生のお考えは正しい」とうなづきながら父の話に耳を傾けてくれていたそうです。

定年後22年、「先生」と呼ばれることもなくなった父にとって、その時間がどれほど心地よかったか――。投資の勉強を始め、自信過剰になったことだけが原因ではない。父はただ、孤独だったのです。

「ワシだって、まだ何かの役に立ちたかったんだ」―父の本音

翌朝、寛治さんは食卓で湯呑みを両手で包んだまま、ぽつりぽつりと話し始めました。

「あの男はな、ワシの話をちゃんと聞いてくれた。教師時代の話も、母さんのことも。……『先生』と呼んでくれたのは、久しぶりだった」

「投資がうまくいけば、お前に仕送りを返せると思った。母さんの墓参りにも、もっといい花を供えられる」

目を潤ませて、父はこう続けました。

「ワシだって、まだなにかの役に立ちたかったんだ。……すまん。情けない話だ」

健一さんは言葉を失いました。父は単に騙されたのではなく、「役に立ちたい」という願いを利用されたのです。来年再雇用契約が満了する自分の姿が頭をよぎりました。父の姿は、20年後の自分かもしれない。

「父さん、来週も電話するよ。毎週、電話する」

父は少し驚いた顔をして、それから静かに頷きました。

【注目セミナー】6月5日(金)
武者陵司が解く!
「日本株新時代」の全貌