62歳の息子の元に82歳の父から届いた上機嫌な電話。「もう仕送りはいらないよ」という一言に、息子は言いようのない違和感を覚えました。元高校教師で几帳面、人を見る目には自信があったはずの父に、なにがあったのでしょうか。FPの青山創星氏と一緒に、老人に忍び寄るリスクの実態を見ていきましょう。
(※写真はイメージです/PIXTA)
「もう仕送りはいらんぞ」年金13万円・82歳元高校教師父からの“上機嫌な電話”に違和感…急遽帰省した息子が悲鳴を上げた「テーブルの上・積み重なったパンフレット」の中身【FPの助言】
年賀状が3枚だけ…息子が気づいた「本当の原因」
その夜、健一さんは実家に泊まりました。テーブルの隅にある年賀状の箱を何気なく開けてみると、教え子からの年賀状はわずか3枚。父が現役の頃、正月には束になった年賀状を「今年は300枚以上だ」と嬉しそうに読み上げていたものです。
ふと、父の言葉がよみがえりました。
「『投資の先生』は週に一度、家まで来てくれた。お茶を飲みながら話をした」
健一さん自身は、月に一度しか電話していませんでした。詐欺師は毎週訪れ、「先生のお考えは正しい」とうなづきながら父の話に耳を傾けてくれていたそうです。
定年後22年、「先生」と呼ばれることもなくなった父にとって、その時間がどれほど心地よかったか――。投資の勉強を始め、自信過剰になったことだけが原因ではない。父はただ、孤独だったのです。
「ワシだって、まだ何かの役に立ちたかったんだ」―父の本音
翌朝、寛治さんは食卓で湯呑みを両手で包んだまま、ぽつりぽつりと話し始めました。
「あの男はな、ワシの話をちゃんと聞いてくれた。教師時代の話も、母さんのことも。……『先生』と呼んでくれたのは、久しぶりだった」
「投資がうまくいけば、お前に仕送りを返せると思った。母さんの墓参りにも、もっといい花を供えられる」
目を潤ませて、父はこう続けました。
「ワシだって、まだなにかの役に立ちたかったんだ。……すまん。情けない話だ」
健一さんは言葉を失いました。父は単に騙されたのではなく、「役に立ちたい」という願いを利用されたのです。来年再雇用契約が満了する自分の姿が頭をよぎりました。父の姿は、20年後の自分かもしれない。
「父さん、来週も電話するよ。毎週、電話する」
父は少し驚いた顔をして、それから静かに頷きました。
