年金は早くもらったほうが得――そんな「年金繰上げ」に対する注目が、現役世代の会社員の間で高まっています。数字を見て、情報を集めて、納得して決めたはず……。それでも、制度上のルールを知らなかったことで、思いもよらなかった事態に直面することがあります。本記事では、ある60代男性の事例をもとに、繰上げ受給に潜む「見落とされやすい落とし穴」について、FPの三原由紀氏が詳しく解説します。
年金の繰上げなんてしなきゃよかった…61歳半ばで年金受給を開始した元会社員。「早くもらったほうがいいに決まってる」納得の決断が一転、病院で思わず叫んだワケ【FPの助言】
「貯蓄を眠らせておくより、動かしたほうがいい」合理的に見えた判断
繰上げで早めに年金をもらいながら、貯蓄の一部をNISAで長期運用に回せばいい。10年以上使わないお金なら、増える可能性もある。銀行に置いておくだけでは増えないという思いも、背中を押しました。
こうして高橋さんは、61歳半ばで年金の繰上げ受給を選択します。本来月約18万円の年金は、繰上げによる減額率(1ヵ月あたり0.4%)が適用され、約17%減の月約15万円に。さらに高橋さんは、貯蓄900万円のうち約300万円をNISAの積立に回すことにしました。手元には流動資金として約600万円が残ります。
「置いておくだけだったお金が、ようやく働き始めた気がする。繰上げを決断してよかった」
しかしその安堵感は長続きせず、思わぬ事態へとつながっていきました。
年金繰上げの「まさかの落とし穴」に絶句
1年ほど経った頃、自宅で転倒し、腰を強く打った高橋さん。手術は成功したものの後遺症が残り、長時間の外出が難しくなりました。週2日のアルバイトも続けられなくなり、収入は繰上げ年金だけになります。
入院中、病院のソーシャルワーカーから「障害が残る場合、障害年金という制度が使えることがあります」と声をかけられました。もし障害年金を受給できれば、家計の大きな支えになるはずでした。しかし、障害年金について調べていく中で、高橋さんは思いもよらない事実を知ることになります。
繰上げ受給を選択すると、その後にケガや病気が発生した場合、障害基礎年金を請求することが原則としてできなくなるのです。
繰上げ受給によって老齢基礎年金の受給権が発生した時点で、新たに障害基礎年金を請求する道が原則として閉じられるためです。一度請求すると取り消しもできません。
将来に備えていたはずの選択が、別の局面では自分を守る手段を閉じていた――その現実に、高橋さんは小さく叫びました。
「嘘だろ、こんなことまで考えてなかった……」
