成年後見制度の裏側にある「不自由な現実」

父の資産を動かせない状況に追い込まれた健一さんは、成年後見の申立てを行いました。成年後見制度とは、認知症などで判断能力が低下した人に代わり、財産管理や契約行為を行う人(後見人)を選任する制度です。父である我妻さんが認知症になってしまった以上、その財産を動かすためには、それしか方法がなかったからです。

申立て後、家庭裁判所が選任したのは、弁護士でした。ここで、第二の問題が発生します。

健一さんが考えていた「できるだけ環境の良い高級老人ホームに入れてあげたい」という願いを、後見人である弁護士は認めませんでした。その理由は、成年後見制度の目的にあります。

後見人の役割は「本人の財産を守ること」であり、過度に高額な支出は原則として認められません。特に、高級老人ホームのように費用が高額な施設については、「本人の生活レベルや必要性と比べて妥当かどうか」が厳しく判断されます。つまり、「資産があるから使っていい」ではなく「本人の利益に照らして必要かどうか」が基準になるのです。

結果として、健一さんの希望は却下され、父は複数の施設を転々とした後、最終的に自宅から車で30分ほどのグループホームへ入居することになりました。

決して、その施設が悪いわけでも不満を抱いているわけでもありません。ですが、「お金はあるのに、思うように使えないなんて」……その現実に、健一さんは強い違和感を覚えたのでした。