老後資金は「2,000万円必要」「5,000万円あれば安心」――など考えていませんか。多くの人が“なんとなくの目安”で老後資金の準備を進めていますが、その金額は何歳までの生活を前提にしているのでしょうか? 長生きしたことで老後資金が尽き、子ども世代に大きな負担がのしかかる場合もあります。90代の母と65歳の息子が直面した事例から、「長生きリスク」と備え方について、CFPの伊藤寛子氏が詳しく解説します。
長生きなんてしたくなかった…詫びる94歳母に、沈黙する65歳息子。年金月13万円・残高1,000万円で“一生足りる計算”が、12年で枯渇した理由【CFPの解説】
「これぐらいあれば、きっと大丈夫」――老後資金の“目安額”の落とし穴
高齢化が進む日本では、和子さん・康介さんのように親が90代、子が60代以上という家庭は珍しくなくなっています。親の長生きは喜ばしいことですが、現実には子世代の家計に影響を及ぼすケースもあります。
長生きリスクは、特に女性にとって現実的な問題です。厚生労働省の「令和6年簡易生命表」によると、日本人女性の平均寿命は約87歳。さらに、80歳女性の平均余命は約12年となっており、平均的には90歳以上まで生きる計算になります。
加えて、同資料より、90歳まで生存する女性の割合は約50%、95歳まででも約26%(4人に1人)に達します。もはや「90代まで生きること」は特別なことではありません。
では、長生き時代にどう備えればよいのでしょうか。多くの人が、老後資金を「とりあえずこのくらいあれば大丈夫だろう」という“総額の目安”で用意しているのではないでしょうか。
たとえば、かつて話題になった「老後資金2,000万円問題」をきっかけに、この数字を目標にしている人は多いものの、その金額が「何歳までの生活を前提にしているのか」を明確にしている人は多くありません。本来老後資金は、以下を元に逆算して考える必要があります。
・何歳まで生きる可能性があるか
・その間の生活費はいくら必要か
・医療費や介護費はどの程度見込むか
しかし実際には、「なんとなくこのくらいあれば安心そう」という感覚で準備されていることが少なくありません。
老後資金を考える際には、少なくとも90歳、できれば95歳くらいまでを想定して設計することが望ましいでしょう。想定寿命を5年延ばすだけでも、必要な資金は大きく変わります。
その上で、「毎月の生活費」や「資産が何歳まで持つか」といった資金の流れを具体的に把握しておくことが重要です。預貯金だけで取り崩すのか、資産運用を組み合わせるのかなど、早い段階で考えておくことで、長生きリスクへの備えがしやすくなります。
さらに、見落としがちなのが将来の支出の変化です。生活費といっても、かかる費用は加齢とともに変化していきます。介護費の増加や、自宅の修繕や施設への入居費用などは、後から大きな負担になります。
介護に備えて300万〜500万円程度の資金をあらかじめ生活費とは別に確保しておくことも、対策の一つです。いざという時の準備ができていないと、子世代が負担を負うことになりかねません。
老後資金は「長生きする前提」で準備をする時代
親が元気なうちに資産状況を親子で共有しておくことも、大事なことです。もし不足する可能性があれば、対策や「不足したらどうするか」を一緒に話し合っておくことができます。
本来、長生きは決して悪いことではありません。問題なのは、「長生きする準備」ができていないことです。寿命はコントロールできません。だからこそ、「長生きする前提」で備える必要があります。
もし今、「老後のお金はなんとかなるだろう」と思っているのであれば、「あなたの老後資金は何歳までの人生を想定しているか」―― 一度立ち止まって考えてみてください。その答えが、将来の安心を大きく左右することになるかもしれません。
伊藤 寛子
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)