年金月9万円、戻れない実家、遺族年金の現実に「こんなはずでは」

現実を突きつけられたのは、65歳で年金を受け取り始めたときです。振込通知に記された金額を見て、陽子さんは思わず二度見しました。

年金は月9万円前後(税・保険料控除前)。手取りはさらに少なくなります。内訳は基礎年金が月7万円弱、残りが就職から2年間働いた分の厚生年金と、婚姻期間中の年金分割分を合わせた額です。

「年金分割がある。夫の年金の半分をもらえる」と漠然と思っていましたが、分割の対象は婚姻期間のすべてではありませんでした。この制度(3号分割)が対象とするのは、2008年4月以降の婚姻期間中に夫が加入していた厚生年金の報酬比例部分のみ。それ以前の期間や、夫が自営業だった時期は含まれません。陽子さんの場合、対象期間はおよそ18年分にとどまりました。

さらに、財産分与で得た1,500万円も、安心材料にはなりません。90歳まで生きるとすれば、27年間で取り崩すことになり、毎月使えるのは4万円台。年金の約9万円と合わせても、月の収入は13万円台にとどまります。一方で、郊外のワンルーム賃貸でも家賃は約5万5,000円。生活費を含めると月14〜15万円はかかり、毎月わずかずつ赤字が続く状態でした。

しかも、63歳での離婚から65歳で年金を受け取り始めるまでの2年間、陽子さんに収入はありませんでした。家賃や生活費として月14〜15万円を貯蓄から取り崩す状況が続き、当初想定していた取り崩しペースではとても追いつかず、1,500万円はすでに大きく目減りしていました。

「いざとなれば実家に戻ればいい」……それも誤算でした。

実家には母が一人で暮らしていますが、敷地内には長男である兄が別宅を構えています。昔から家の主導権を握る兄に、母は強く言えない関係でした。陽子さんが戻ることについても、母はどこか遠慮がちです。その空気を感じ取り、「ここには戻れない」と悟りました。

さらに後になって知ったのが、「遺族年金」の存在でした。もし離婚していなければ、夫に万が一のことがあった場合、陽子さんが受け取れる年金の姿は大きく変わっていました。

自分の基礎年金に加え、夫の老齢厚生年金を基準に計算された遺族厚生年金が受け取れるからです。細かい計算は省きますが、月に受け取れる額は14万円前後になる可能性がありました。離婚後の月9万円と比べると、毎月5万円近い差。年間にすれば60万円、10年で600万円の違いです。

「こんなはずではなかった」――そう感じたときには、もう元には戻れませんでした。