(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、医療業界でも多様な働き方が広がっています。常勤医や正職員だけでなく、短時間勤務、Wワーク(副業・兼業)、さらにはフリーランス(業務委託契約)といった形態を導入するケースが増えています。しかし、勤務形態によって労働法上の扱いは大きく異なり、「雇用」と「委託」の線引きを誤ると、未払い残業や社会保険の未加入といったトラブルにつながりかねません。今回は、クリニック経営者が知っておくべき多様な働き方の種類と、それぞれに求められる労務管理上のポイントを整理します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

常勤職員:基本となる雇用形態

クリニック経営の中心となるのは常勤の職員です。週40時間以下のいわゆるフルタイムで雇用契約を締結します。労働法上の保護(労働基準法・労働契約法・社会保険など)が全面的に及ぶため、労働時間の管理、時間外手当、年次有給休暇の付与などが必須です。

 

常勤職員は業務に対しての責任が重く、働く時間も長くなります。1日8時間、週40時間週40時間を超える場合は所轄の労働基準監督署へ36協定(時間外休日労働届)を提出することを忘れないようしましょう。

短時間正職員:正職員と同等の待遇で労働時間が短い

近年は、待遇や責任の重さは常勤職員と同等で勤務時間だけを短くした「短時間正職員」の働き方もトレンドになっています。主に育休復帰者や、ワークライフバランスを重視する職員に人気がある働き方です。

 

給与は、正職員として採用すると仮定した場合の給与をベースに、労働時間で案分して設定します。分類上はあくまで正職員ですので、正職員に賞与や昇給があれば、短時間正職員にも時間案分して支給することが必要です。

パート・アルバイト:社会保険加入に注意が必要

パート・アルバイトは、所定労働時間が常勤より短い職員を指します。法律上の決まった定義はありません。雇用契約であるため、法的には正職員と同じ「労働者」に該当します。ただし、原則として社会保険加入は正職員の4分の3以上の勤務、雇用保険は週20時間以上の勤務などの基準を満たす場合に必要となります。

 

また、有給休暇は勤務日数に応じて比例付与することが必要です。短時間職員を採用する際は、雇用契約書に「所定労働時間」「休日」「契約期間」を明記し、契約更新の取り扱いを明確にしておくことがトラブル防止につながります。

副業・兼業:情報管理と労働時間の通算がポイント

最近は複数の勤務先を掛け持ちする「副業・兼業型」も増えています。厚労省のガイドラインでは、副業・兼業を一律に禁止せず、「健康管理」「秘密保持」「労働時間の通算」を前提に容認する方向へ転換されています。クリニック側としては、他院での勤務実態を把握し、労働時間を通算して法定労働時間(週40時間)を超えないよう管理すること、業務上知り得た患者情報等の守秘義務を明記することが求められます。

フリーランス・業務委託契約:雇用と誤認されないための留意点

医師、看護師、コメディカルの一部では、「フリーランス」として業務委託契約を結ぶ形も見られます。しかし、実態として勤務時間や勤務場所を指定し、院長の指揮命令下で働いている場合は、契約書の形式にかかわらず「労働者」とみなされる可能性があります。

 

その場合、労働基準法上の労働時間規制、社会保険・労働保険の適用義務、未払い残業リスクが発生します。業務委託契約とする場合は、業務の成果をもって報酬を支払う、勤務時間・場所の拘束がない、自らの裁量で業務を遂行できる、といった条件を整えることが重要です。

勤務形態ごとに“線引き”を明確にすることが安全経営につながる

クリニック開業時は、少人数ゆえに「柔軟に働いてもらえれば」との考えが先行しがちですが、勤務形態の区別を曖昧にすると、後々のトラブルの火種になります。特に、雇用契約書や業務委託契約書の整備、社会保険加入の判断、労働時間と報酬体系の明確化の3点を押さえることが、安全経営の基本です。

 

「正職員以外の多様な働き方」は、人材確保の有効な手段ですが、その実現には法的な線引きの理解が欠かせません。開業初期こそ、社労士などの専門家に相談しながら、働く側・雇う側の双方にとって安心できる仕組みを整えることが大切です。

 

 

山本 達矢

社会保険労務士法人WILL
代表社労士
特定社会保険労務士