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実家のキッチンに現れた「異物」
都内に住む佐藤健一さん(45歳、仮名)。半年ぶりに実家のドアを開けた彼が真っ先に目を奪われたのは、キッチンの隅に鎮座する真新しいウォーターサーバーでした。
「築40年の古い家です。その台所に最新のサーバーが置いてあるのですから、一瞬、状況が飲み込めませんでした」
母・美代子さん(74歳、仮名)は、月10万円の年金で慎ましく暮らす、絵に描いたような節約家です。スーパーの特売をハシゴし、水道代すら気に掛ける母が、なぜ維持費のかかるウォーターサーバーを導入したのか。健一さんの脳裏に、嫌な予感が走りました。
「それね、春先に電気屋さんが来たときに……。電気代が安くなる手続きをしたら、これもセットで付いてくるって言うから。便利だと思ったのよ」
美代子さんは自慢げに話しますが、健一さんはすぐにピンときました。これは単なるセット販売ではない。生活インフラの切り替えを餌にした、巧妙な「ついで勧誘」だと。
健一さんが母と一緒に契約書類を確認すると、事態は想像以上に深刻でした。電力会社の切り替え書類の束に紛れていたのは、サーバーのレンタル契約だけではありません。「月額制の生活サポート」「駆けつけサービス」といった、一人暮らしには過剰なオプションがいくつも並んでいたのです。
「担当の人がね、すごく親切だったの。今のプランより安くなる表を見せてくれて、これも入っておけば安心ですよって。あんなに一生懸命説明されたら、断るのも悪いと思って……」
美代子さんの証言から見えてきたのは、「高齢者の良心」を利用した狡猾な営業スタイルでした。訪問員は電気代の削減を入り口にして信頼を築き、契約のサインを次々と求めてきました。美代子さんにとっては、目の前の親切な若者の期待に応えることが、いつの間にか「多重契約」という形にすり替わっていたのです。
健一さんはすぐに事業者に電話を入れましたが、窓口の対応は極めて事務的でした。
「ご本人が書面にサインされ、サーバーも設置済みですので、合意の上での契約です。キャンセルには違約金が発生します」
「当時の説明内容? 記録は残っておりません」
書類上は母が納得してサインしたことになっているため、法律で無理やり取り消すのは困難です。健一さんは、騙された母を責める以上に、「断れない親切心」や「複雑な話への疲れ」を狙い撃ちにするようなやり方に、激しい怒りを覚えました。