地方の地味な会社員が“億り人”になった理由

市川さんは、地方の中堅メーカーで新卒から定年まで勤め上げた、いわば“普通の会社員”でした。派手な昇進もなく、年収も決して高くはなかったといいます。

ですが、若い頃から堅実な性格で、「ボーナスには一切手をつけずに貯蓄する」「流行の車や服には目もくれない」といった無駄遣いをしない生活を40年以上続けた結果、貯蓄は着実に増えていきました。さらに定年後、退職金を受け取った後ほどなくして親から都内の土地を相続し、それを売却したことで手元資産は一気に3億円の大台に乗りました。

「正直、自分でも驚きました。まさか、こんな金額になるとは思ってもみませんでした」

それでも、元から堅実な性格の市川さんは、資産が増えたからといって、急に生活が派手になることはありませんでした。 むしろ、市川さんは“目立たない生き方”を、より意識するようになったといいます。

あえて“貧しそうな人”に擬態して生きる切実な理由

その考えの背景には、資産が増えた直後に起きた、いくつかの出来事がありました。

まず、かつての仕事仲間の変貌です。その知人は、退職金を手にすると高級車を購入し、ゴルフやレストラン、旅行へ頻繁に出かけるようになりました。その様子を周囲に吹聴していましたが、ほどなく怪しげな投資話に乗って大きな損失を出し、さらに空き巣被害にも遭ったという話を人づてに聞きました。

また、親の相続後しばらくすると、それまで音沙汰のなかった親戚から「子どもの留学費用を貸してほしい」「事業の保証人になってくれ」という連絡が相次ぎ、断れば「冷たい人間だ」「身内を見捨てるのか」と言われ、関係がぎくしゃくしていきました。

さらに、どこから情報を嗅ぎつけたのか、怪しげな投資の勧誘電話がかかってくるようになりました。中には後から詐欺だと判明した案件もあったといいます。

「人の本性を見るようで、正直、怖くなりました」

市川さんはそう振り返ります。 お金は生活を豊かにする一方で、厄介な人間関係やトラブルを呼び寄せる力も持っている。その現実を市川さんは身をもって知ったのです。

「だったら、最初から“お金を持っていない人”に見えた方がいい。そう思うようになりました」

こうして市川さんは、よりよい住まいへ移ることもなく、生活水準も上げない選択をしました。 質素な暮らしは、自分を守るための“防御”になったのです。