遺言は、相続が終わってからも遺族の生活に大きく影響を与えます。故人の遺志を記した“物言わぬ文書”が、ときには遺族を束縛してしまうことも……。亡き父の「実家は売らず、守っていくように」という遺言に悩まされた60代兄弟の事例をみていきましょう。
実家は売らないでくれ…亡き父の「遺言」に縛られていた60代兄弟、“母親には内緒で”実家売却を計画【CFPが解説】
父を亡くした60代兄弟の悩み
62歳の兄Aと61歳の弟B。それぞれ実家から車で30分ほどの場所に住んでいる2人には、共通の悩みがありました。それは、数ヵ月前に亡くなった父の「遺言」です。
父の遺産は、遺言書によって母親のCさんがすべて相続することになっています。またその遺言書には、遺産相続に関する記述以外に、息子たちに向けて「実家は売らず、守っていくように」とあったのです。
とはいえ、実家には引き続き母親が住む予定のため、当初はなんの異論もありませんでした。
ところが、父の四十九日の法要を終えたあと、兄弟は母親から「最近足を悪くして入浴もままならない。かかりつけ医に、介護保険の介護認定を受けるように勧められた」と告げられたのでした。
父が遺言書に「売らないで」と書いた兄弟の実家は築50年近く、当然バリアフリーではありません。足が悪くなった母親にとっては住みにくい造りです。Cさんはその後「要介護2」と認定され、介護保険の在宅サービスで、食事や入浴、リハビリなどの支援を受けています。
Cさんの家計状況は?
なお、母は現在、自身の老齢年金と遺族厚生年金を合わせた月19万円で暮らしています。これに父の死亡保険金として受け取った1,000万円と、元々あった貯蓄を切り崩していけば、おそらくは不自由なくひとりで生活できるだろう、というのが親子の見通しでした。
「ひとまずお金の心配はいらないだろう」と一息ついた矢先に起きた健康上の問題――。兄弟は話し合いを重ね、「母親のケア」と「将来の実家のこと」を早急に対応する必要があるという結論に達しました。
そこで、自分たちのなかである程度考えをまとめたうえで、「何か見落としがないか、第三者の専門家の冷静な意見を聞きたい」と、筆者のところへ相談に訪れたのでした。