「子どもには迷惑をかけたくない」。人生の晩年になると、多くの人が口にする言葉です。お墓の問題も、その一つでしょう。管理の手間、維持費、遠方に住む子どもたちの負担――合理的に考えれば「墓じまい」は正しい判断のようにも見えます。しかし、「良かれと思って」決断したその選択が、思いもよらない後悔を生むこともあります。今回は、墓じまいを終えたあとに訪れた“心の空白”と、そこから見えてきた老後の意思決定の難しさについて、ファイナンシャルプランナーの小川洋平氏が解説します。
「墓じまいなんて、しなきゃよかった」…年金月24万円で暮らす68歳男性を後悔させた「かわいい孫のひと言」【FPが解説】
なぜ墓じまいをしたいのか? 合理性だけを追求すべきではない理由
高齢になるほどお墓の管理が大変になっていくのは事実です。忙しい子どもに負担をかけたくないと、墓じまいを選択するのは、ごく自然な親心といえるでしょう。
その意味で、墓じまいは確かに一つの選択肢です。しかし、決断する前に「なぜ墓じまいをしたいのか」を自分たちなりに掘り下げて考えてみる必要があります。
というのも、近年、墓じまいをめぐるトラブルも少なくありません。たとえば、想定していなかった高額な離檀料を請求されたり、檀家をやめることを理由に住職との関係が悪化したり、改葬許可や手続きの不備で、納骨がスムーズに進まなかったりといったケースです。こういった事例があることは、事前に理解しておく必要があります。
また、「遠くて手入れができない」という理由だけであれば、必ずしも墓じまいが唯一の解決策とは限りません。最近では、お墓の清掃や簡単な供養を代行してくれるサービスもあり、負担を大きく減らすことも可能です。
合理化が進む現代では、「不要なものを整理する」という発想が強調されがちです。しかし、お墓は単なる管理対象ではなく、私達自身が気づかないうちに「心の拠り所」になっていることもあります。
費用や手間だけで判断せず、自分たちにとって何が大切なのか、家族はどう感じるのか、想定される問題に対処するために代替手段はないのか。こういった視点から、時間をかけて話し合うこと。
終活を意識する人が増えている今だからこそ、自分はもちろん、家族や子ども、孫にとっての財産や住まい、お墓のあり方についても、自分たちの価値観と向き合いながら、納得のいく形を探していきたいものです。
取り返しがつかないからこそ、決断までプロセスを重ねる
墓じまいは、「正解」が一つではない選択です。身寄りがなく管理する人がいない場合など、合理性を優先せざるを得ないケースもあります。しかし、理屈の上では納得できる判断であっても、気持ちが追いつかないことはあります。
子どもや孫の負担を減らしたいという思いは、大切な親心でしょう。ただ、その選択において本当に重要なのは、「何のために行うのか」「自分たちはどんな価値観を大事にしたいのか」を、自分たちの言葉で確認することです。
一度してしまえば、取り返しがつかないのが「墓じまい」でもあります。情報を集め、複数の選択肢を知り、家族と話し合う――。判断の前にそうしたプロセスを重ねることが、後悔の少ない老後や終活につながっていきます。
「良かれと思って」の決断ほど、立ち止まって考える時間を持ちたいものです。
小川 洋平
FP相談ねっと