人生100年時代、限られた資金で実りある暮らしを送るためには、ないものを補う「工夫」と、無駄を削ぎ落とす「簡素な暮らし」の視点を持つことが大切です。本記事では、保坂隆氏の著書『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』(明日香出版社)より一部を抜粋・編集し、単なる節約とは異なる、お金に振り回されない老後を過ごすための心構えを解説します。
年金生活の不安を減らすヒントは「ないものを補う工夫」と「無駄をなくす“簡素な”暮らし」お金をかけない〈老後の過ごし方〉のコツ
創意工夫で出費を抑える「節約の達人」の暮らし
「できるだけお金を使わない暮らし」をゲーム感覚で楽しんでいる「節約の達人」がいます。Hさんはつい3、4年前まで、六本木に事務所を構え、さっそうと仕事をしていたイラストレーターです。おしゃれでかわいいイラストは、かなりの人気がありました。
ところがHさんは60代前半であっさり引退を宣言すると、ひとりで岐阜の農村に住みついてしまいました。彼女は東京生まれの東京育ち。岐阜には縁もゆかりもありません。仕事でこの地を訪れたとき、朝靄に煙る光景が神々しく見えたことに感動すると、その1年後に身辺をすっかり整理し、猫1匹を抱き、自分で車を運転して引っ越しました。運転免許も、田舎暮らしを決意してから取得したというから天晴れです。
ところが、です。憧れの田舎暮らしだったものの、最初のうちは驚きと困惑の連続だったといいます。これまでは「何かほしい、何かが足りない」と思えば、24時間営業のスーパーなどですぐ手に入りましたが、岐阜の引っ越し先は、いちばん近いコンビニまででも車を使って出かけなければならなかったのです。
でも、彼女はそんな「不便な暮らし」を楽しいものに変えてしまいました。今では「足りないものがあったら、手元にあるもので工夫する」ことに徹しているそうです。
ワインのコルク栓を燃やしてインク代わりに
少し前のこと。サインペンを使い切って、必要なときに書き物ができなくなってしまったそうです。東京時代なら、すぐに100円ショップかコンビニに駆け込むところでしょうが、岐阜の田舎町には徒歩で行ける店がありません。かといって、サインペン1本のためにわざわざ車を出すのも億劫です。
そこで彼女は一計を案じました。それが何かというと……。
「ワインのコルク栓の先をちょっと燃やして、その煤をサインペンの先につけて書いてみたの」彼女はそれで見事に急場をしのいだとのこと。
「ちょっとオーバーだと思うけど、やったぁ!という気持ちになったわ」以来、彼女は、何かを使い切ったときは、すぐに新しいものを買いに行くのではなく、ほかのもので間に合わせることができないかな、と考えるようにしているそうです。
都会暮らしを卒業し、田舎で老いを迎え入れる人生のステージに入った彼女は、出費を抑え、あるもので工夫しながら暮らしています。それは「ボケ防止に最高」とのことですが、老後の正しい姿勢なのは間違いのないところでしょう。
東京時代は、有名店のお菓子などを送ってくれたものですが、最近は「近くの農家から豆を分けてもらったので、ストーブでじっくり煮ました」と、豆料理や自家製のフキ味噌などを送ってくれます。
そのなつかしい味わいからは、彼女の正しい姿勢がじんわりと伝わってくるようです。