年末年始に集中する「子・孫費用」と、75歳からの現実

佐藤さん夫婦のように、年末年始に負担が集中する家庭は少なくありません。お年玉だけでも、孫6人に1万円ずつ配れば6万円。さらにお節7万円、追加の食材、外食代や孫へのお小遣いなどを含めると、佐藤さん宅では年末年始だけで18万円以上の出費になりました。月25万円の年金収入からすれば、決して小さくない負担です。

さらに見落とされがちなのが、体力と気力の消耗です。

75歳という年齢になると、長時間の立ち仕事や寒い中での掃除、気を遣い続ける数日間――これらが一気に重なります。

また、兄弟姉妹間で孫の人数が違うと、「平等にしなければ」という無言のプレッシャーも生まれます。

「長男のお嫁さんの実家は、もっと豪華にやっているらしくて……」 佐藤さんはそんな話を耳にするたび、つい無理をしてしまうといいます。

「やらなきゃ」から解放されていい。75歳からの年末年始との向き合い方

年末年始がつらくなる理由は、出費の多さだけではありません。「ちゃんとしなきゃ」「親として、祖父母として、これくらいは」——そんな無言の役割意識が、心と体を消耗させていきます。

FPとしてお伝えしたいのは、「頑張らない選択」は、決して冷たい判断ではないということです。

「できない」ではなく、「ここまで」と決めていい
たとえば、「お節は3万円まで」「お年玉は孫1人5,000円まで」と上限を明確にする。料理を減らす、掃除を簡単にする、出来合いに頼る——それは手抜きではなく、今の年齢に合った最適化です。75歳からは、「全部やる」より「続けられる形」を選ぶことが、何より大切になります。

子や孫のために使うお金は、「愛情」と切り離して考える
高いものを用意しなくても、思いは十分に伝わります。人数が多い場では、「不味くなければ十分」。静かに味わいたい贅沢は、年末年始が終わった後、夫婦2人の時間に取っておいていいのです。

疲れきって迎える正月より、少し余力を残す正月を
子や孫が帰ったあと、抜け殻のようになる正月が、毎年続く必要はありません。「また来年も会えるように、無理をしない」。それは、自分たちの老後を守る、立派な家計管理でもあります。

特に孫にとって年末年始を祖父母の家で過ごすことは、普段とは違う、ちょっとしたイベントの一つです。そう考えると、「頑張ってやってあげなきゃ」そう思うのも無理はありません。

また、子どもの立場から見ると、「親が年をとる」という事実は、意外なほど実感しにくいものです。どこかに「まだ大丈夫だろう」という甘えがあり、親が背負っている体力的・経済的な負担を、現実として想像できていないことも少なくありません。

佐藤さん夫婦は、「お正月はできる限りもてなすもの」と信じてきた役割から降りることを決断しました。「疲れてしまうから、泊まるなら1泊で」「年金暮らしだから、たくさんのおせちはもう買えない。料理もたくさんはできないから、食べたいものがあれば各々準備して」……と。

年末年始は、誰かの期待を満たすための行事ではありません。 自分たちが笑顔で迎え、笑顔で終えられること——それが、これからの正解です。

三原 由紀
プレ定年専門FP®