母がもらっている「年金20万円」に隠された真実

その後、太田さんは母親に連絡しづらくなり、半年が過ぎました。しかし、心のどこかで引っかかり続けていたのです。

「月20万円も収入があるなら、あそこまで切り詰める必要はないはず。やっぱり何かおかしい気がする……」

そんな折、たまたまスマートフォンで目にした記事から、年金は偶数月に2ヵ月分がまとめて支給される、という事実にハッとしました。

「母が言っていた20万円は、月額ではなく“1回の振込額”だったのではないか」

父親は自営業、母親は専業主婦でした。国民年金と遺族年金を合わせて「月20万円」はやや多い印象です。しかし、「2ヵ月で20万円(=月10万円)」だとすれば、辻褄が合います。

もし月10万円だとしたら、光熱費や医療費などを支払えば手元に残るお金はわずか。生活費に回せるお金に余裕はありません。食費を削り、冷暖房を我慢して暮らしていた理由に思い至り、確信に変わりました。

子どもに迷惑をかけたくない…老いを認めたくない親の気持ち

なぜ太田さんの母親は、正確な年金額や暮らしの状況を伝えなかったのでしょうか。

高齢の親がお金の話を避け、実態よりもよく見せようとする背景には、「頼る=迷惑」という考えがあるのでしょう。子どもにも家庭があり、教育費などの負担が大きいことを知っているからこそ、子どもに負担や迷惑をかけたくない、という配慮と遠慮の気持ちがあります。

また、具体的な数字を見せることで、自分の無力さや限界を突き付けられるように感じるのではないでしょうか。

「まだ自分でやれる」「助けが必要と思われたくない」という老いを認めたくない、抵抗の気持ちもあるでしょう。

そこに最初から「お金いくらあるの?」「年金はいくらもらってる?」と直球の質問をしてしまうと、親が身構えるのは無理もありません。

まずは体調や生活の様子など、日常の話題から入ることが大切です。たとえば光熱費や通信費など、生活の基盤となる支出を一緒に確認することで、自然と暮らしのサイズが見えてくるでしょう。 また、溜まっている書類の整理や、手続きのサポートのついでに話をするのも有効です。

その際は、「財産を管理したい」ではなく、「困らないように手伝いたい」というスタンスで声を掛けると、親も受け入れやすいでしょう。

さらに、「これからどんな暮らしをしたいか」「旅行や出かけたいところはあるか」「もしもの時、どんな医療や介護を受けたいか」などを聞いてみることで、親の価値観や思いを共有することができます。そして、その希望を叶える手段としてお金について話をすることで、親子で歩み寄って話ができるのではないでしょうか。