久しぶりの帰省で抱いた違和感 ――暗く冷えた家と小さくなった母

都内の企業に勤める太田さん(54歳・仮名)は、都内に購入したマンションに妻と大学生・高校生の子どもと暮らしています。地方出身の太田さんの父親は3年前に他界。現在82歳になる母親は、実家で一人暮らしをしています。

仕事の忙しさに加えて子どもの受験や進学が重なり、実家に帰る機会を逃していましたが、昨年末、2年ぶりに帰省しました。しかし、玄関を開けた瞬間、太田さんは違和感を覚えました。家の中が以前よりも暗く、ひんやりとしているのです。

そして、出迎えてくれた母は、記憶の中の姿よりも小さく、背中も丸まって見えました。

 何より驚いたのは、部屋の寒さでした。母は着古した羽織ものや靴下を何枚も重ね着しているようです。太田さんが「母さん、寒すぎるよ。暖房の温度上げたら?」と言うと、母親から「いいんだよ、電気代も高いし、動いてれば暖かいから」という返答が返ってきます。

さらに気になったのが、冷蔵庫の中身です。入っているのは、スーパーの半額シールが貼られた惣菜や食材、そして賞味期限が切れた調味料ばかり。かつては、帰省の度に息子家族のために、すき焼き用のお肉や何種類ものおかずが用意されていたはずです。

こんなに質素だっただろうか。違和感を抱いた太田さんは、思わず聞いてしまいました。

「……母さん、お金、足りてる?」

その流れで、「年金っていくらもらってるの? 今、貯金はどれくらいあるの?」と矢継ぎ早に質問を重ねました。すると、母は声を荒げて、こう返してきました。

「よけいなお世話だよ! 年金は20万円あるし、まだまだやっていける!」

その剣幕に驚きながらも、太田さんは思わず口にします。

「月20万円あるなら、どうしてこんな生活をしてるんだよ……」

「節約よ! 誰にも迷惑をかけないようにと思って、自分で考えてやってるんだから口出しされたくない!」

怒りを隠さず言い返してきた母に、太田さんはそれ以上言葉を続けられませんでした。「本人が大丈夫と言っているんだから」と自分に言い聞かせ、気まずい空気を残したまま帰省を終えました。