世間が浮き足立つ年末年始。 忘年会、帰省、家族団らん、テレビから流れるお正月特番。しかし、そのすべてが、ある人にとっては“苦痛”でしかない時間になることもあります。「年末年始なんて、こなきゃいいのに……」。そう呟いたのは、年金月6万円で暮らす69歳の男性でした。華やかな時期に、静かに心をすり減らす老後の現実とは――。ファイナンシャルプランナーの小川洋平氏が解説します。
正月なんて来なきゃいいのに…年金月6万円・運転代行69歳男性「この時期が一年でいちばんキツイ」華やかな季節の裏、凍えるアパートでポツリ【FPが解説】
個人事業主の老後が抱えるシビアな現実
原田さんのような元個人事業主は、決して珍しくありません。個人事業主や、厚生年金加入が義務付けられていない職場で働いてきた人は、老後に受け取れる年金が「国民年金のみ」「厚生年金がほとんど無い」というケースが多くあります。
厚生年金に長く加入してきた会社員と比べると、年金額は大きく差が出ます。かつて話題になった「老後2,000万円問題」は、高齢夫婦2人で公的年金が月約21万円、支出が約26万円という前提で、人生100年時代を生きた場合で計算されています。
しかし、もし国民年金のみで、夫婦2人で月13万円程度しかなければどうでしょうか。不足額はさらに拡大し、生涯で必要な資金が5,000万円規模になる可能性もあります。
「個人事業主は定年がないから、働けるだけ働けばいい」
確かに一理ありますが、コロナ禍のように社会的に抗えない出来事や病気などの突発的な事態が起きれば、「働き続ける」という前提は簡単に崩れてしまいます。そのため、会社員以上に老後への備えを意識する必要があります。
個人事業主には小規模企業共済や国民年金基金のような税制が優遇された制度が用意されていますし、iDeCoも掛金上限が会社員より高くなっています。老後に向けて備えるための選択肢は決して少なくありません。
さらに、公的年金は最大75歳まで繰り下げることで、受給額を最大84%増やすことも可能です。もちろん、その間の生活資金をどう確保するかという現実的な課題は残りますが、これらを組み合わせれば、制度を正しく理解し、組み合わせて活用すれば、「何も打つ手がない」状況ではないことも確かです。
自分で選択した生き方…老後の生活設計も今から考える
個人事業主は、自分の努力次第で自由な働き方と収入を得られます。その一方で、公的保障は会社員よりも乏しいのが現実です。
「好きなことを仕事にする」
「自由に生きる」
その選択をしたからこそ、老後の生活設計についても、自分自身で責任を持って考える必要があります。毎月少額でも、早い段階からiDeCoなどを活用して積み立てていけば、将来の選択肢は確実に広がります。原田さんの後悔は、決して特別な話ではありません。気づいた“今”こそが、準備を始める一番早いタイミングです。
小川 洋平
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