地元住民の声からみえてくる軽井沢の変化

軽井沢には定住者に加え、夏季の別荘利用者やワーケーション層、外国人居住者など、季節によって膨らむ「関係人口」が存在する。町の実体は、数字以上に“人口の厚み”がある地域なのだ。

そんな軽井沢の夏の駅前について、地元住民はこう語る。

「夏になると、駅前の駐車場には県外ナンバーの高級車がずらりと並びます。ベンツのGクラス、ポルシェ911やランボルギーニまで。ただ最近は、別荘利用ではなく“働きに来る人”も増えましたね」

このひと言こそ、変わりゆく軽井沢を象徴しているといえる。

高収入を支える「地域資産」

軽井沢の強みは、高原リゾートならではの自然環境と、首都圏と地続きのような利便性の融合にある。東京駅から新幹線で約70分。良質な水資源や高速通信インフラの整備などが進み、「休む場所」だった軽井沢は、いまや「働く場所」へと変わりつつあるのだ。

さらに、別荘所有者や長期滞在者、リモートワーカーの増加により、地域内の消費・雇用・教育が活性化。町の経済システムは「別荘経済」から「デュアルライフ経済」へと進化を遂げている。

地元ホテルの支配人は言う。

「数年前までは『休暇の町』でしたが、いまは仕事を持ち込む人が圧倒的に増えました。滞在が長くなり、地域の消費構造も変わりましたね」

さらに、星野リゾートを中心とした食文化の洗練、インターナショナルスクールの誕生、芸術関連イベントの増加が、軽井沢を「文化資本の集まる町」へ押し上げた。

観光・自然・教育・文化が有機的に結びつくことで、単なる避暑地ではなく「知的リゾート」としての価値が形成されている。

観光依存からの脱出

軽井沢の特徴は、観光・宿泊だけでなく、教育・農業・ITを含む多層型な収益構造を築いた点にある。

これは企業における「事業ポートフォリオ経営」に近い。ある産業が不振でも、別の領域が地域経済を支える仕組みだ。

加えて注目すべきは、地域外の知的資産を取り込みながら進化し続ける「オープンイノベーション型地域経営」になっている点である。

IT企業のサテライトオフィス進出や研究者・クリエイターの集積は、「富を消費する町」から「価値を創造する町」への転換を象徴している。

また、「軽井沢」という地名自体がブランド化し、不動産、食、観光、教育に横断的に展開され、地域産品のプレミアム化を後押ししているといえるだろう。近年の成功例としては、軽井沢高原野菜やクラフトビール、ワインなどのブランド戦略が挙げられる。

不動産会社の担当者はこう語る。

「別荘向け建築だけでなく、移住用・長期滞在用の住宅需要が急増しています。最近は起業家からの問い合わせも本当に増えています」

軽井沢の経済は、観光に依存しない地域経営システムへ確実に進化したといえる。