中井さんを待ち受ける「深刻な問題」

もちろん、たとえば母親の介護が10年続いた場合、その後の収入をどう確保するのかという深刻な問題は残ります。

49歳から10年のブランクを空けて働くのは容易ではないでしょう。しかし、中井さんはそれでも将来を悲観していません。

理由のひとつは、65歳から自身の年金が受け取れることです。最低限の生活であれば、年金でまかなえると考えています。また、母親を看取ったあとは、働き方にこだわらず、警備員やコンビニなど、できる仕事で収入をつなぐつもりです。

さらに、中井さんには実家という大きな資産があります。実家の土地は現在の評価で約4,000万円。中井さんは独身で、もし自身が亡くなった場合、相続する親族はおらず、遺産は国庫に帰属することになります。

「だったら、生きているうちにきちんと使い切ったほうがいいと思っているんです」

そう話す中井さんは、最終的に自宅を売却し、その資金を老後の生活費に充てるつもりだといいます。

介護と向き合うための「経済的な備え」

親の介護は、精神面だけでなく、身体面・時間面でも負担がかかりやすく、さらに経済的な影響も大きくなりがちです。

厚生労働省の調査によると、介護を理由に離職した人のうち、経済面において「非常に負担が増した」が29.4%、「負担が増した」が38.2%とされ、約7割の方が経済的な負担感を感じています。

出典:厚生労働省「仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書(令和3年度)」

今回の中井さんのケースでは、将来の道筋が描けていたため、経済的な不安は限定的でした。しかし、一般的には、介護が引き金となり生活が苦しくなったり、その後の就業に悪影響がおよんだりする可能性があります。

そのため、可能な限り仕事と介護を両立するための工夫や制度の活用が必要です。

仕事と介護を両立するためにできること

・介護休業や時短勤務制度について職場へ相談する

・訪問介護やデイサービスなど、外部サービスを組み合わせる

・家族やケアマネージャー、地域包括支援センターに相談する

・介護施設の入居を検討する

これらを活用することで、離職を避けながら介護を続けられる可能性が高まります。また、中井さんのように、万が一離職する状況になっても対応できるだけの資産形成を進めておくことも重要です。蓄えがあれば選択肢が広がり、介護と生活の両立もしやすくなります。

介護は突然はじまることが多いため、早い段階から経済面の備えを進めておくことが大切です。必要に応じて専門家に相談するなどし、自身の状況に合った資産形成を進めておくことで、いざというときにも落ち着いて向き合える体制を整えられるでしょう。

辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP