厚生労働省「雇用動向調査」によると、令和5年の介護離職者数はおよそ10万人にものぼりました。離職後は再就職も難しく、貯蓄が底をつき経済的困窮に陥る人も少なくありません。そんななか、82歳の母を支えるため退職し、無職のまま介護を続ける中井和真さん(仮名・49歳)は「老後は心配していない」と言い切ります。いったいなぜなのか、介護のための経済的な備えについて、中井さんの事例をもとにみていきましょう。
子の責任ですから…年金月14万円・高齢母の介護のため仕事を辞めた、実家暮らしの49歳長男「老後は心配していません」と言い切るワケ【CFPの助言】
母を看取るため…49歳が選んだ人生の転換点
中井和真さん(仮名・49歳)は、とある外資系企業で管理職として働いていました。就職氷河期を勝ち抜いたエリートです。
そんな中井さんには、実家で一人暮らしを続ける82歳の母親がいます。その母親は、自宅で転倒し骨折したことをきっかけに、要介護3と認定され、日常生活の多くに介護が必要な状態となりました。
父親は数年前に他界しており、実家には母一人……中井さんは悩みに悩んだ結果、退職して実家に戻ることを決断しました。
49歳で退職して無職になるという選択に、会社の同僚たちは驚きを隠せなかったといいます。
「生活は大丈夫なのか?」「将来どうするつもりなんだ?」「キャリアがもったいないよ」
心配の声が届くのは当然でしょう。客観的に見れば収入が途絶え、介護の負担が重く、先行きは厳しそうに思えます。
しかし、当の本人である中井さんは、そうした不安にまったく動じていません。むしろ落ち着いた表情で、こう口にするのです。
「母を看取るのは子の責任ですから……。それに、老後のことはまったく心配していません」
中井さんが「老後は心配ない」と言い切るワケ
一見すると、中井さんの現在の状況はかなり厳しいでしょう。収入は「母親の年金月14万円」のみ。自身は退職したため無収入で、49歳という年齢から再就職のハードルも高くなります。
しかし、中井さん本人に焦った様子はありません。その理由として、いくつかの根拠を挙げてくれました。
・ 現時点で3,000万円の貯金がある
・ 実家暮らしのため、家賃など住居費が一切かからない
・ 母の介護が必要な現在が、支出が最も膨らむ「ピーク時」だと捉えている
また、収入は母親の年金だけのため、毎月12〜13万円の赤字になるといいます。ただし中井さんは、今が介護による支出のピークだと捉えており、仮にこの状況が10年続いたとしても、手元には1,500万円ほど残る見込みだと計算しています。
もちろん長い人生のなかでイレギュラーは起きるでしょう。しかし、こうした見通しがあるからこそ、中井さんは落ち着いた姿勢で日々を過ごしているのです。