みやこさんを救った病院職員の「ひと言」

トキさんはもう90歳と高齢であり、いつかはそのときが来ます。長年の介護からは解放されることになりますが、そうなれば、収入は月額10万円の年金のみです。

2人が1人になっても、支出が半分になるわけではありません。先のことを考えると、いまから少しでも働いて収入を得たいものの、いまは介護に手いっぱいで、1人で外に出る時間すら満足にとれていません。

「どうしたらいいんだろう……」

悶々とする気持ちが表情に表れていたのでしょうか。トキさんの診察が終わり診察室から出ると、病院の事務職員からこう声をかけられました。

「少しお疲れのようですね。もし時間があれば、当院のカウンセラーとお話してみませんか」

思ってもみない機会に、みやこさんは二つ返事で快諾。そこで日々の苦労を話すと、カウンセラーは親身になって話を聞いてくれると同時に、自治体の支援や介護サービスなどの紹介をしてくれました。

「ひとりで抱え込まず、こうして誰かを頼ってもいいんですよ」

専門家のアドバイスを聞くうちに少しずつ心がほぐれ、みやこさんは思わず涙をこぼしました。

深刻化する「老老介護」の実態

内閣府「令和6年版高齢社会白書」によると、平成23(2011)年度以降、65歳以上の要介護者数は右肩上がりに増加し、令和3年度には676.6万人にのぼっています。

また、介護を担っているのは「同居の家族」がもっとも多く、介護者の年齢は男女ともに7割以上が60歳以上であることもわかっています。いわゆる「老老介護」が常態化しているのが現状です。

また、介護に要する時間は、要介護度が高い人ほど長く、「要介護4以上」の人を介護する人のうち、4割超が「終日介護を行っている」と答えています。また、介護や看護を理由とした離職率は、男性よりも女性が高いようです。

こうしたなか、介護保険サービスの利用が推進されているものの、地域によっては需要と供給がマッチせず、満足なサービスが受けられない傾向にあります。金銭的な余裕があれば「介護付き有料老人ホーム」といった高齢者施設への入所が視野に入るでしょう。しかし、比較的安価に利用できる「特別養護老人ホーム」などの公的施設は人気で待機者が多く、入居にはハードルが高いのが現状です。