年間110万円の基礎控除枠を使った生前贈与は、相続対策の代表的な手法のひとつです。非課税枠の範囲内で贈与することにより、相続財産を減らしながら贈与相手にも喜んでもらえるため、実践している人も多いでしょう。しかし、制度への理解が不十分であったり、必要な対策を怠ったりした結果、贈与が認められずに「多額の追徴税」を課されるケースも散見されます。「年110万円以内の生前贈与」に潜む落とし穴とその対策をみていきましょう。
愛するわが子のため、10年間「年110万円の生前贈与」を続けた60代夫婦…夫の死から2年後、43歳長男が税務調査で〈追徴税〉を課されたまさかの理由【CFPが警鐘】
篤志さんが絶句したまさかの事実
「これは名義預金になりますね。これは全額を相続財産として申告しなければいけませんでした」
「えっ……?」
思わず絶句する篤志さん。
結局、意図的な隠ぺいではなかったものの追徴課税の対象となり、篤志さんには追加の納税と過少申告加算税が課せられてしまったのでした。
名義預金とは?生前贈与の落とし穴
名義預金とは、口座の名義人と実質的なお金の支配者が異なることです。名義預金とみなされてしまうと、相続発生時に通帳のお金は名義人の財産ではなく、被相続人の財産となってしまい、生前贈与は成立しません。
そもそも贈与を成立させるためには、贈与する人、贈与を受ける人の双方の合意が必要ですが、一郎さん親子にはその合意がありませんでした。
生前贈与を検討する場合、次のことに注意をしてください。
・毎年、贈与契約書を作成する
・毎年同時期の贈与は避ける(定期贈与とみなされる恐れがあるため)
・子の通帳の印鑑は親のものと別のものを用意する
・通帳や印鑑は子が管理して自由に使えるようにしておく
また、暦年贈与の場合、相続開始前の一定期間に受けた贈与は相続財産に持ち戻して計算しなければいけないことにも留意する必要があります。篤志さんのケースで仮に贈与が認められていたとしても、一郎さんの死亡前3年間の贈与(330万円)は、相続財産に加算して相続税の計算をする必要がありました。
なお、税制改正により、暦年課税では令和6年1月1日以後の贈与で取得した財産について持ち戻し期間が段階的に延長され、最終的には相続開始前7年以内となります。
他方、相続時精算課税制度では、年間110万円以内の贈与を相続財産に持ち戻す必要がなくなりました。
いずれにしても、贈与を成立させるには双方の合意と客観的証拠が必要です。スムーズな相続のためには、慎重な生前対策が大切でしょう。
山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表