「せっかく苦労して貯めた金だぞ、国に奪われてたまるか…」

そう考えた一郎さんは、非課税の範囲内で生前贈与することを決めました。

当時、篤志さんはまだ14歳でした。そのため、一郎さんが代理で篤志さん名義の銀行口座を開設します。

そして、毎年の篤志さんの誕生日に、本人に知らせることなく110万円の入金をはじめました。

というのも、一郎さんは常々「ウチにはお金がないから無駄遣いはするなよ」と、篤志さんにも節約を心がけさせていたのです。

結局、それから亡くなるまでの10年間、一郎さんは毎年欠かすことなく、篤志さんの口座に110万円を入金しました。そして一郎さんが亡くなったこのタイミングで、母は篤志さん名義の通帳を本人に渡したのです。

夫婦は「子どもに迷惑をかけたくない」という思いから、ゆくゆくは介護付き老人ホームに入居するつもりだったそうです。そのため、退職金にも一切手を付けず、年金(月25万円)の一部も預金に回すなどして倹約生活を続けました。その結果、一郎さんの死亡時、預金額は6,000万円を超えていたといいます。

ただ、通帳というサプライズプレゼントを受け取った篤志さんは、「自分にはこのお金があるから」と言って相続放棄。一郎さんの財産はすべて母親が相続しました。

約2年後…篤志さんのもとにかかってきた1本の電話

「税務調査に伺いたいのですが」

ある日、篤志さんのもとに税務署から電話がありました。

突然の電話に最初は詐欺かと疑いましたが、どうやら本物のようです。とはいえ、後ろ暗い所はないため、特に対策せず調査を受けることにしました。

調査当日、調査官から「ご自身が持っている通帳をすべて見せてください」と言われた篤志さん。2冊ある自分の通帳を見せると、調査官は片方の通帳に目を向けます。それは一郎さんが篤志さんのために作った通帳でした。

「こちらの通帳は?」

「ああ、それは父が私のために作ってくれた通帳です」

「そうですか……こちらの通帳の存在はいつお知りになりましたか?」「毎年決まった日に入金があるばかりで、出金はないようですが」

次々に質問が続くなか、篤志さんは正直にありのままを答えました。

篤志さんも、年間110万円までの贈与に対しては贈与税がかからないことは知っていたからです。

ところが、話を一通り聞いた調査官は篤志さんに衝撃の事実を告げました。