わが子はいくつになってもかわいいものです。とはいえ、適切な距離感をとることができずにいつまでも子離れできないと、わが子からの「まさかの対応」に面食らってしまう日がやってくるかもしれません。とある親子の事例を通して、親子間で生じる「思わぬトラブル」と、そうならないための予防策をみていきましょう。牧野寿和CFPが解説します。
「親としてのプライドはないの?」40歳長女が放った痛烈な一言…年金月21万円で暮らす70代夫婦が“自慢の娘”から失望されたワケ【CFPの助言】
寡黙な夫が口を開く
ここまで一切口を出さなかったAさんは、Cさんが自室に戻ったことを確認して、Bさんに聞きます。
「親が窮地になればCがなんとかしてくれるのは当然だと、母さんは本気でそう思っていたのか?」
実際、夫婦は収入に見合わない額の教育費をCさんにつぎ込み、その後は住宅ローンを完済すべく定年退職までに繰上げ返済を重ねた結果、老後の生活資金を準備する余裕はありませんでした。
Bさん「当然でしょう。貯金だってあと500万円もないし、破産するわよ」
Aさん「でも、家計は毎月20万円で切り盛りできていたし、僕が入院した時も、高額療養費制度や生命保険の入院特約の給付金で、医療費や入院のために支払った費用は賄えたと言っていなかった?」
Bさん「それはそうだけど……」
Aさん「いまさらなんだが、老後の面倒を見てもらいたかったら、Cをこの家から手放してはいけなかったんだよ。2年前だったか、昇進報告の時は笑顔で帰ってきただろう。Cは決して親を忘れてはいないよ」
老後はいくらあれば生活できるのか?
(公財)生命保険文化センター「2025(令和7)年度生活保障に関する調査《速報版》」によると、夫婦2人の老後生活での最低日常生活費は、平均で月23.9万円です。その割合は20~25万円未満が26.7%、30~40万円未満が21.6%、25~30万円未満が14.7%の順となっています。
さらに、旅行・レジャーや趣味などを楽しめる「ゆとりのある老後生活」を送るには、老後の最低日常生活費とは別に月15.2万円、合計で平均月39.1万円が必要とされています。
夫婦の月あたりの収入は約21万円と、最低日常生活費の平均に達していません。しかし、夫婦はこれまで貯蓄を取り崩すことなく、月20万円で生活ができていました。さらに、固定費などで節減できる余裕もあり、他人と比較することもないでしょう。
Bさんは、Cさんが幼いころから自分の思い通りに育ててきました。しかしCさんは、ある年齢を境に、自分の人生を自分で選び、歩みはじめています。
Cさんがいつまでも夫婦の娘であることに変わりはありません。ただ今回の騒動は、Cさんにとっては「親からの自立」を、夫婦にとっては「娘を一人の大人として尊重する」きっかけになったことでしょう。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員