夢だけでは暮らせない…地方移住のリアル

コロナ禍以降、自然豊かな暮らしを求めて地方移住を検討・実行するシニア層が増えています。

また、地方では1,000万円台で庭付きの一戸建てが手に入るエリアもあり、魅力的な選択肢に映るかもしれません。

しかし、地方移住は「安さ」や「ゆとり」だけでは成り立ちません。地域コミュニティへの適応、医療や買い物の利便性、交通手段の確保など、現実的な課題が数多く存在します。

特に高齢期の移住では次のような「見落とし」が思わぬトラブルを招きます。

・医療機関・スーパーへのアクセス……地方は「車が前提」の立地が多く、運転できなくなると生活の利便性が一気に低下します。

・地域の慣習……自治会や清掃当番など、都市部にはない慣習や住民同士が協力して取り組むタスクが多く、負担に感じる人も少なくありません。

・孤独のリスク……知人がいない環境では会話の機会が減り、心身の健康に影響をおよぼす可能性があります。

・家の管理コスト……庭や屋根、外壁などの維持費が想定以上にかかるケースが少なくありません。

里子さんが心を閉ざし、宏司さんが外出を避けるようになった原因には、こうした「地方生活の現実」がありました。

地方移住で「こんなはずじゃなかった」とならないためには

地方移住で後悔しないためには、たとえば1〜3ヵ月ほどの「試し移住」(短期滞在)を通じて、生活インフラや地域の雰囲気を確認するなど、段階的にステップを踏むことをおすすめします。

その際、地域コミュニティの「受け入れ態勢」も確認しておきましょう。移住者への対応は地域差が大きく、温かく迎え入れてくれるところもあれば、宏司さん夫婦が直面したように“よそ者”に対して距離を置く地域も存在します。ご近所付き合いのしやすさは、日々の暮らしやすさを大きく左右します。

さらに、“終の棲家”として住宅を購入するのであれば、「庭付き一軒家」より「メンテナンスが少ない物件」を選ぶのがおすすめです。手入れや維持費の負担は想像以上のストレスとなります。

地方移住そのものが悪いわけではありません。しかし、「理想の老後」の実現には、現実的な下調べとライフプランの綿密な設計が大きく影響します。

老後の住まいは「夢」ではなく、現実の生活の延長線上にあることを忘れず、しっかりと準備を整えてから実行に移すことが肝要です。


武田 拓也
株式会社FAMORE
代表取締役