老後資金も家庭も問題ないはずなのに…思いも寄らぬ「妻からの申し出」

山口さん(仮名・60歳)は有名大学を卒業後、一流商社に就職。以来、仕事一筋で、家族を養うために身を粉にして働いてきました。休日の接待ゴルフや飲み会も、成果を上げるための努力の一環でした。

60歳の定年で受け取る退職金は約2,500万円、年金見込み額は夫婦で月30万円。約5,000万円ある貯蓄と合わせれば、悠々自適な老後生活を送れる見込みです。息子と娘は就職して独立し、家庭も円満。少なくとも、山口さんはそう信じ込んでいました。

定年を迎えた夜、「これからは仕事のペースも落ち着くし、夫婦ふたりでゆっくり旅行でも」と思っていた矢先のことです。

「あなた、少し話があるの」

妻(57歳)に呼ばれた山口さんは、「これからの旅行の相談か?」と呑気に構えていました。 ところが、妻は静かにテーブルの上に白い封筒を置きました。

中を開けた瞬間、山口さんは息をのみました。封筒の中には、記入済みの「離婚届」と、「財産分与に関する計画書」が入っていたのです。

妻は弁護士と離婚に向けた相談を始めており、離婚後の住まい、生活費、年金分割など、すべて計画済みだったのです。

「離婚を切り出すのは定年後に」と決めていたのは、夫の退職金が確定するタイミングを見計らってのことでした。「老後は一緒に」と考えていたのは夫だけ。

「一体なぜ?」
「俺が何かしたか?」

心当たりが一切ない山口さんは、呆然とするしかありませんでした。 そんな山口さんに妻が語り始めたのは、なんと30年前、長男が生まれた時のことでした。

「あなたにとっては大昔のこと、あるいは何も気づいていなかったかもしれないけど。あの時のあなたの言動を、私は一生忘れることができません」