家族を養うため、と仕事一筋できた山口さん(仮名・60歳)。60歳の定年を迎え、退職金と貯蓄で老後資金は万全、夫婦で悠々自適なセカンドライフが始まるはずでした。しかしその夜、妻が差し出したのは「離婚届」。夫にとっては過去でしかない30年前の言動が、まさか数千万円の老後資金と、老後設計を揺るがす事態を招くことになるとは、思いもよりませんでした。本記事ではCFPの伊藤寛子氏が、「老後の安心」のために、「お金の準備」だけでなく備えておくべきことについて、山口さんの事例を元に解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
嘘だろ、いつの話をしてるんだよ…60歳商社マン、絶句。妻がそっとテーブルに置いた「白い封筒」、定年を迎えた夜の悪夢【CFPの助言】
老後の安心は「お金」だけではつくれない
資産防衛の観点からいえば、離婚という選択を避けるのが賢明です。 山口さんは必死に働いてきて、「家族の暮らしも子どもの教育も十分責任を果たした。老後資金もしっかり蓄えられた。」という自負がありました。
しかし、離婚届を前にして山口さんはようやく、「お金」や「家族を養う責任」だけでは家族の関係を保てていなかったことを思い知りました。
老後に向けて大事なのは、「お金の準備」だけではありません。 老後のライフプランには、資産の棚卸しだけでなく、夫婦の「心の棚卸し」も必要です。これからの人生を誰と、どのように過ごしていきたいか。それを定年後に初めて考えるのではなく、もっと早い段階から徐々に夫婦で共有していくことが、お互いの価値観や認識のズレを埋めていくことにつながります。
金銭的にも、精神的にも安心して老後を迎えるためには、お互いを理解した上でライフプランを描くことが大事ではないでしょうか。
伊藤 寛子
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)