日本でお金持ちが多い場所と聞くと、東京や大阪、横浜や神戸など、大都市をイメージする人が多いのではないでしょうか。しかし、日本にはあまり知られていない“お金持ちの村・町”が数多く存在します。北海道北部・オホーツク海沿岸に位置する猿払村(さるふつむら)もそのひとつです。では、この村の住民はなぜお金持ちなのか、経営コンサルタントの鈴木健二郎氏が、実際の住民の声を交えて解説します。
ホタテが「豪邸」「フェラーリ」に化けた時代は終わり…〈人口2,600人・平均給与789万円〉北海道・猿払村のいま【お金持ちの地方の実態】
猿払村が確立した〈稼げる仕組み〉
猿払村の漁協は、採苗から育成、加工、販売までを一貫して管理する“地域経営体”として機能している。この垂直統合型モデルの本質は、単なる生産効率の向上ではなく、リスク分散と品質保証を組織的に担保する構造にある。
生産者一人ひとりが独立して市場に挑むのではなく、漁協という中核組織が“サプライチェーン・マネジメント”を担うことで、地域全体の収益を平準化し、個々の生産者を支える。この構造は企業経営における“プラットフォーム戦略”に近く、個人事業体が組織のスケールメリットを享受する仕組みとなっている。
また、「猿払産ホタテ」は高品質ブランドとして国内外に定着。かつては中国や香港などアジア圏向け輸出が盛んで、“産地名=高品質”というイメージを先行させることで、買い手が“指名買い”するブランド戦略を築いた。
これは、商品ではなく「信頼」という無形価値を流通させたモデルであり、他産業にも通じるマーケティングの成功例といえる。
ただし、近年は中国の輸入停止措置(原発処理水放出に関連)や燃料、人件費の高騰など外部環境の変化が収益を圧迫している。それでもなお、村が高い所得水準を維持しているのは、この“組織的経営”の堅牢さを示しているといえるだろう。
猿払村がもつ「真の強み」とは
猿払村の真の強みは、海の資源そのものではない。養殖技術・品質管理ノウハウ・組織的信頼・ブランドイメージといった“見えない資産”が、他の産地との差別化を支えている。これらは法的な特許や商標のように登録された「知的財産権」ではないが、企業経営の観点でいえば、再現困難で価値創造力の高い知的資産として機能している。
今後の猿払村に求められるのは、この無形資産を次の市場文脈へ移し替える「再設計」だ。
たとえば、ホタテを主軸にした高付加価値食品(グルメ缶詰・機能性食品)のブランド展開や、漁業体験・加工施設ツアーなどを組み合わせた観光・教育プログラム化が考えられる。
さらに、異業種企業とのコラボレーションによるブランド商品の共同開発も有効であり、「地域×企業連携」による新たな知的ビジネスモデル創出の可能性が広がる。