妻の不貞を知った夫の“意外な反応”

それを聞いた洋祐さんは、意外な言葉を投げかけます。

「で、どうするつもりだ? 今すぐに謝れば、許してやらないこともないぞ」

その時、仁美さんの脳裏をよぎったのは、結婚生活の楽しかった思い出ではなく、辛く理不尽な思いをしてきた場面ばかりでした。

洋祐さんは亭主関白気質で、家事は一切ノータッチ。そして、根っからの仕事人間でした。平日の帰宅は夜11時過ぎの毎日。仁美さんは夫が帰宅してから一緒に夕飯を食べて、片付けをして寝ます。そのため、ベッドに入るのは毎日、深夜1時過ぎ。そして、翌朝は娘の弁当作りのために5時半に起床しなければなりません。長い間、家族に献身を捧げてきたのです。

仁美さんの頭のなかにはそんなことがよぎり、勢いに任せて「離婚したい」と言ってしまったのです。

財産分与なしで離婚に合意

まさかの要求に耳を疑う洋祐さん。洋祐さんはてっきり、妻は謝って許しを請うだろうと思っていました。

「わかった……、それなら出ていけ。でも、悪いのはお前なんだ。当然なにもやらないからな」

怒りに震えながらそう答えるのが精一杯の洋祐さん。

仁美さんも、自分に非があるんだからしょうがないと納得。実親に事情を話してお金を借り、アパートを借りて家を出ました。

仁美さんはこれまで扶養に入っていたため、パート収入は年100万円ほど。これでは生計は立てられないため、ホームセンターは辞めて、介護施設の正社員になりました。介護福祉士の資格を持っていたので転職はスムーズでした。

仁美さんは、Aさんとの歳の差を自覚しており、籍を入れることは考えていません。

しばらくは平穏な日々が続きましたが、仁美さんをまさかの悲劇が襲います。

数ヵ月後のある日、職場の健康診断で仁美さんにガンが見つかったのです。しかもステージ4。医師からは「このまま放置すれば余命は半年ほどでしょう」と告げられました。

「罰が当たったのかも……」

仁美さんは目の前が真っ暗になりましたが、とにかく治療を開始します。手術と抗がん剤治療が必要なため、仕事はしばらくできません。

働けない期間の生活費と医療費はやむなく実親に援助してもらいました。