年金制度の移行期を生きたことで、十分な年金を受け取れずに暮らす高齢者たち。特に夫を亡くした女性の貧困は、深刻な社会問題です。しかし、そうした人々を支えるための、あまり知られていない国の支援制度が存在します。ある日ポストに届く「緑の封筒」が、その重要な知らせかもしれません。本記事ではAさんの事例とともに、年金制度について、社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が解説していきます。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
亡き夫が遺した「最後の愛」…〈遺族年金ゼロ〉行き過ぎた節約で栄養失調の70歳妻を、時を超えて救った「緑色の封筒」【FPが解説】
夫の死、「遺族年金ゼロ」の現実
夫婦の年金額は少なく、Aさんはパートで家計を支え続けましたが、やがて最愛の夫が病気で亡くなります。Aさんは知人から「遺族年金がもらえるはず」と聞き、年金事務所へ相談に行きますが、告げられたのは「受給要件に該当していません」という厳しい現実でした。
老齢年金の受給資格期間は10年に短縮されましたが、遺族厚生年金は原則25年という要件が残っていたのです。夫の厚生年金加入期間は12年だったため、要件を満たせませんでした。
Aさんが受け取れるのは、夫が払ってくれていた国民年金と、自身がパートで加入した厚生年金を合わせた、年額61万円(月額約5.1万円)の老齢年金のみ。少ない金額でしたが、それでも夫が保険料を払ってくれたことに、Aさんは心から感謝しました。
しかし、近年の物価高騰で、その年金額では到底暮らしていけません。「長く働かなければ……」と心に決めますが、仕事を辞めたあとのことを考えると、通帳と夫の写真を前に、不安で胸が押しつぶされそうでした。
緑色の封筒に救われる
そんな矢先、Aさんは持病の腰痛が悪化し、仕事を辞めざるを得なくなります。収入は月額5.1万円の年金のみ。公営住宅の家賃を払うと、手元にはほとんど残りません。貯金を切り崩しながら、月3万円ほどで生活しようと必死に切り詰めました。
気丈に振る舞っていたAさんでしたが、無理がたたり、自治体のサポートで無料受診した健康診断では「栄養失調」と診断されてしまいます。
そんなある日、ポストに日本年金機構から1通の「緑色の封筒」が届きました。封を開けてみると、入っていたのは「年金生活者支援給付金請求書」。
年金生活者支援給付金の支給要件
年金生活者支援給付金は、年金を受給している65歳以上の人で、支給要件をすべて満たしている人に支給されるとのことです。
(2)同一世帯の全員が市町村民税非課税
(3)前年の年金収入金額とその他の所得の合計が806,700円以下(昭和31年4月1日以前生まれの人)
ただし、上記の要件に、障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれません。なお、80万6,700円を超え90万6,700円以下である人は、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給されます(2025年度額)。また、日本国内に住所がないとき、年金が全額支給停止のとき、刑事施設等に拘禁されているときは支給されません。
年金生活者支援給付金は、公的年金等の収入やその他の所得額が所得基準額以下の年金受給者の生活を支援するために、年金に上乗せして支給される給付金制度です。Aさんは仕事を辞め、収入が年金のみとなり、新たに年金生活者支援給付金の支給対象となったため届いたようです。