家族だからこそ介護は難しい

家族という関係性だと、感情が本気で反応してしまい、許せないことが多くなります。家族の絆という「情」が入ることで、介護の負担はさらに重くなりがちです。その親密さが逆に心を苦しめるのです。

職場である老人ホームで、ご家族から「介護士さんはいつも優しいですね。本当にすごいです。私にはできません」とよく言われるのですが、自宅での介護と仕事としての介護は違います。プロの介護職は、仕事として関わることで割り切れる部分が大きいです。介護職は「情」をまったく持たないわけではないですが、それでも「お金をもらってやっている」という視点で、受け流せることも多いです。

たとえば、起きているほとんどの時間、「せんせー! トイレお願いしまーす!」と叫び続ける方。便器に座っていても、トイレに行きたいと訴えます。介護施設なら、関わる職員を変えながら対応します。何度言われても、まるで1回目のように対応できる。正直、「はぁ……またかぁ……」と思うことはありますが、「まぁ、認知症があるし仕方がない」と割り切ることができます。

一方で、家族介護は24時間ずーっと一緒だから、どうしても感情が巻き込まれてしまう。「さっきもトイレに行ったばかりでしょ!」と怒鳴ってしまうかもしれません。心も体も消耗してしまいます。だから、「情が入って苦しい」と感じるなら、それを無理に抱え込まないでください。

介護サービスの利用は「あきらめ」ではない

介護はひとりではできない。これは日々実感しています。プロに頼ることをうしろめたく思う方も少なくないですが、サービスを選んで、契約手続きをして、荷物を準備して……かなりめんどくさい。それだけでも十分介護しています。むしろ素晴らしいことです。

「親の下の世話を人様にしてもらうなんて申し訳ない」などと思う必要もありません。介護職はそれでお金をいただいているプロなのですから。

家族が家族らしくいられる時間を持てるように。介護サービスを利用することはあきらめではなく、新しい暮らしの形を作る、新たな一歩なのです。

のぶ
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員