家族だからこそ、むしろ難しい――それが介護です。本記事では、施設の生活相談員を務めながら介護職員としても現場に出る介護のプロ、のぶ氏による著書『読むだけで介護がラクになる本』(すばる舎)より一部を抜粋・再編集し、家族介護の難しさと、家族が家族らしくいられるために知っておきたい、介護サービスの意義について解説します。
「なんでわかってくれないの」「なんで私だけ」と苦しむ日々…大切な親の介護なのに〈猛烈なストレス〉を抱え込んでしまうワケ
家族だからこそ介護は難しい
家族という関係性だと、感情が本気で反応してしまい、許せないことが多くなります。家族の絆という「情」が入ることで、介護の負担はさらに重くなりがちです。その親密さが逆に心を苦しめるのです。
職場である老人ホームで、ご家族から「介護士さんはいつも優しいですね。本当にすごいです。私にはできません」とよく言われるのですが、自宅での介護と仕事としての介護は違います。プロの介護職は、仕事として関わることで割り切れる部分が大きいです。介護職は「情」をまったく持たないわけではないですが、それでも「お金をもらってやっている」という視点で、受け流せることも多いです。
たとえば、起きているほとんどの時間、「せんせー! トイレお願いしまーす!」と叫び続ける方。便器に座っていても、トイレに行きたいと訴えます。介護施設なら、関わる職員を変えながら対応します。何度言われても、まるで1回目のように対応できる。正直、「はぁ……またかぁ……」と思うことはありますが、「まぁ、認知症があるし仕方がない」と割り切ることができます。
一方で、家族介護は24時間ずーっと一緒だから、どうしても感情が巻き込まれてしまう。「さっきもトイレに行ったばかりでしょ!」と怒鳴ってしまうかもしれません。心も体も消耗してしまいます。だから、「情が入って苦しい」と感じるなら、それを無理に抱え込まないでください。
介護サービスの利用は「あきらめ」ではない
介護はひとりではできない。これは日々実感しています。プロに頼ることをうしろめたく思う方も少なくないですが、サービスを選んで、契約手続きをして、荷物を準備して……かなりめんどくさい。それだけでも十分介護しています。むしろ素晴らしいことです。
「親の下の世話を人様にしてもらうなんて申し訳ない」などと思う必要もありません。介護職はそれでお金をいただいているプロなのですから。
家族が家族らしくいられる時間を持てるように。介護サービスを利用することはあきらめではなく、新しい暮らしの形を作る、新たな一歩なのです。
のぶ
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員