高齢の夫婦が介護をする「老老介護」。しかし、いつそれが不可能になるかは誰にもわかりません。そのときのためにしておきたいのが、特別養護老人ホーム、通称「特養」への入居申し込み。条件に合致するのであれば、今差し迫った状況になくても早く申し込んでおいた方がいいといいます。本記事では、施設の生活相談員を務めながら介護職員としても現場に出る介護のプロ、のぶ氏の著書『読むだけで介護がラクになる本』(すばる舎)より一部を抜粋・再編集し、特養入居の実態を解説します。
「大丈夫、私が夫を最期まで介護するから…」高齢夫婦に迫る〈老老介護〉の危機。もしものときに向けて〈とにかく早く〉やっておくべきこと
特養の入居申し込みに対する誤解
「要介護1や2の人は老人ホームに入居できなくなった!」と騒がれた時期がありました。しかし、この情報は正確ではありません。実際には、要介護1や2の方でも特別養護老人ホーム(特養)への入居申し込みは可能です。
特養の入居には、4つの条件のいずれかに該当する必要があります。その中のひとつが、「認知症により、生活に支障のある症状や行動が頻繁に見られ、在宅生活が困難である」という条件です(要約)。この条件に該当する方は、意外に多いです。
とはいえ、特養の入居は決して簡単ではなく、競争率の高い「狭き門」であることも事実です。それでも、申し込みをするだけで「心が軽くなった」と話すご家族は多くいます。この心理的な安心感こそ、特養の早めの申し込みをおすすめする理由です。
これまでに何百件もの相談を受けてきましたが、実際に申し込みの手続きを終えたご家族からは、「もっと早く知りたかった」という声をよく耳にします。申し込みをしたことで、「いざというときの選択肢が増えた」と安心感を得ることができるのです。
条件を満たしているなら、早く入居申し込みをしたほうがいい
特養の入居は先着順ではありません。緊急度や必要性が点数化され、それに基づいて入居の優先順位が決まります。そのため、条件に該当する場合は、迷わず申し込みをしておくことをおすすめします。
「まだ大丈夫」と思っていても、家族の生活環境やご本人の状態が急に変化することがあります。急な体調悪化や介護負担の増加などで、申し込みをしていないことを後悔するケースも見てきました。
高齢者世帯のご夫婦で、懸命に夫の介護をしていた奥さんがいました。「私が最期まで面倒をみる」と意気込んでいましたが、ある日から急に歩くことができなくなりました。介護をしていた奥さん自身が、夫のご飯を作ることも、着替えの準備をすることもできなくなっては、自宅での生活を続けることはできません。
特養の入居申し込みは、「万が一に備える」という意味でも大きな意義があります。申し込むことで、「選択肢がある」という安心感を得られます。そして、それがご家族や本人にとって、日常の負担を軽減する一助になるのです。
もし周りに「老人ホームの申し込みで迷っている」という方がいれば、ぜひこの情報を伝えてあげてください。選択肢を知ることで、気持ちが軽くなり、安心して次のステップに進むことができるはずです。
「施設の入居申し込みは早ければ早いほうがいい」です。ベッドの空きが出たときに入居させたくなければ、断ってもOKなのです。ただ、もし入居させるかどうか迷うなら、そのチャンスはつかんだほうがいいです。
もう少しがんばろうかと断ってしまうと、次に声がかかるのは1年後、2年後かもしれません。入居しても、外出や外泊は普通にできます。合わなかったら退所すればいいのです。
のぶ
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員