一般的に「牛肉は、鶏肉や豚肉と比べて高い」という認識があるかと思います。では、なぜ牛肉の値段はほかの肉より高くなっているのか、みなさん考えたことはありますか? 本記事では、2005年に本格的に焼肉にハマって以来、年間100店舗以上もの焼肉店を巡るだけでなく、生産現場にまで足を運び、牛や餌に関する知見を深め、肉の焼き方や部位の特性を独自に研究・分析する焼肉作家、小関尚紀氏の著書『知ればもっと美味しくなる!大人の「牛肉」教養』(三笠書房)より一部を抜粋・再編集して、牛肉の値段が鶏肉や豚肉に比べて高価な理由に迫ります。
牛はタイパもコスパも悪い
最後に牛です。
ここでは肥育期間が標準的な和牛を取り上げます。和牛の妊娠期間は約280日で、1回の分娩では1頭しか生まれません。
そして、ここからが長い!
生まれた子牛は、まず繁殖農家で8カ月~9カ月飼育された後、子牛市場に出荷されて肥育農家に購入されます。その肥育農家で、なんと約20カ月肥育されてから、ようやく出荷されるのです。
飼料の量は1㎏増やすために、8㎏~10㎏も必要になります。
[図表]鶏・豚・牛の生産サイクル
上の図を見ていただくと、鶏、豚、牛のそれぞれの出生~出荷までの日数は、体の大きさに比例して長くなっていることがわかります。つまり、牛は、肥育にかかる時間とコストが群を抜いているため、ほかの肉と比べて高価になっているのです。
ちなみに、和牛の場合、肥育期間が長期になればなるほど、肉の旨味が増し、脂が溶けやすくてなめらかな舌触りになると言われています。
しかし、当然ながら、長期になるとケガや病気になって死亡するリスクも高まります。そのため、時間をかけて大切に育てられた牛は、より高価になるわけです。
さらに、牛は鶏や豚と比べると、1頭あたりから取れる可食部分の割合が少なく、これも牛肉の価格が高くなる一因になっています。
牛の飼育は、鶏や豚と比べて、莫大な時間とコストがかかる。牛肉はたしかに高い……。ですが、タイパやコスパを考えればそれも当然なのです。
小関尚紀