日本でお金持ちが多い場所と聞くと、東京や大阪、横浜や神戸など、大都市をイメージする人が多いのではないでしょうか。しかし、日本にはあまり知られていない“お金持ちの村・町”が数多く存在します。北海道勇払郡に位置する安平町(あびらちょう)もそのひとつです。では、この村の住民はなぜお金持ちなのか、経営コンサルタントの鈴木健二郎氏が、実際の住民の声を交えて解説します。
役場職員「ほかの地区とは明らかに違いますね」…人口わずか7,000人、北海道・安平町(あびらちょう)で“億を稼ぐ”資本家たちの正体【お金持ちの地方の実態】
「競馬モデル」の裏に潜むリスク
もっとも、このモデルには課題も潜む。
第一に、依存リスク。平均所得を押し上げるのは一部の高額納税者であり、競馬市場の停滞や血統人気の低下が直撃すれば、町の税収や経済基盤は大きく揺らぐだろう。
第二に、格差の拡大だ。競馬関係者と一般住民の所得差、さらには地価の上昇が、地域内で分断を生むリスクがある。
第三に、持続性の不安。血統ブランドの維持には時間と投資が必要であり、専門人材(獣医や調教師)の不足も慢性的な課題となり得る。
このように、強力なモデルであっても、外的変動に脆弱な面を持つことは否めない。
無形資産経営が示すヒント
安平町の事例は、数字の派手さだけでは語れない。競馬資本を支える「血統ブランド」や「育成ノウハウ」は、法的な権利ではないが、ブランド化や秘匿化によって経済的に機能する無形資産である。これを地域経済に取り込むことで、町は全国でも稀有な高所得地帯となった。
この姿は、地方創生や企業戦略においても大きな示唆を与える。無形資産を地域資本に転換する発想、広さではなく質や希少性で勝負するニッチ戦略、そして生産から流通・販売までを地域内で循環させる垂直統合の構造……こうした仕組みは競馬だけのものではなく、伝統工芸や農産品、観光資源など多様な産業にも応用可能だ。
一方、突出した産業に依存するリスクや地域内格差といった課題も存在する。だからこそ、競馬という強力な柱を軸にしながらも、観光・農業・サービス業との多角化を進めることで、地域全体が持続的に成長できる土台を築くことが求められる。
安平町の物語は、単に「お金持ちの町」という表層的な話ではない。無形資産をどう育て、どう地域と共生させるかという問いへの挑戦であり、その答えは他の町や企業にも活用できる普遍的な知恵となるだろう。
鈴木 健二郎
株式会社テックコンシリエ 代表取締役
知財ビジネスプロデューサー