「タイムパフォーマンス」や「生産性」という言葉が、私たちの日常を支配しています。スケジュールに余白が生まれると、つい「時間を無駄にした」と罪悪感を抱いてしまう。それは、時間をお金に換算する癖がついているからかもしれません。本記事では、53歳で単身スペイン留学に挑んだRita氏の著書『自由で、明るく笑って過ごす スペイン流 贅沢な暮らし』(大和出版)より、スペイン人にとっての「何もしない時間」の価値をご紹介します。
「2泊3日で旅行」を驚かれたワケ
彼らの表情には、時間に追われる焦りではなく、今この瞬間を楽しんでいる穏やかさがあります。この時間に対する価値観の違いを、私は身をもって体験した出来事があります。
以前、「2泊3日で近くのイタリアへ旅行に行く」と友人に話したところ、心底驚かれたのです。「えっ? たった3日? そんなに短い時間で何ができるの?行ったら帰ってくるだけじゃない。海にも行かないの? 山も見ないの? 一体何しに行くの?」と、まるで理解できないといった様子で矢継ぎ早に質問されました。
そのときの友人の困惑した表情を見て、私はハッと気づいたのです。私たち日本人にとっては「効率よく観光地を回る」ことが当たり前になっているけれど、スペイン人にとって旅行とは、もっと深く、もっとゆっくりとその場所の空気を吸い、人と出会い、時間の流れそのものを味わうものなのだと。
彼らにとって2泊3日では、ようやくその土地に慣れ親しんだ頃に帰らなければならない、あまりにも慌ただしい「移動」でしかないのです。
「旅行は少なくとも1週間、できれば2週間はかけるべき」と友人は言いました。「最初の数日はその場所に慣れるため、そして残りの時間でゆっくりとその土地の人になった気分で過ごすの。朝市を散策したり、地元の人が通うカフェでのんびりしたり、夕日を見ながら何も考えずに座ったり。それこそが本当の休暇でしょ」と。
私たちはいつの間にか、休暇でさえも「効率性」や「コストパフォーマンス」で測るようになってしまいました。でも、スペインで学んだのは、時間の「量」ではなく「質」を大切にする生き方でした。
忙しく動き回ることではなく、静かに心を満たしていくことこそが、人生を豊かにする秘訣。そんな時間の使い方を身につけることで、これまで見逃していた人生の美しさに気づくことができるのだと思います。
午後は働かない!? 「シエスタ」で自分を整える時間を大事に
スペインには「シエスタ」と呼ばれる午後の休憩時間があります。その象徴的な光景として、多くの店が午後2時から5時頃までいっせいにシャッターを下ろし、街が静まり返ります。一度家に帰る人も多く、まるで「今日はもう十分働いた」と街全体が言っているようにも見えます。
シエスタの背景には、「(エアコンがなく)暑すぎて働けない時間帯だから」という実用的な理由がありますが、それに加えて、「自分の生活リズムを大切にする」という、文化的な価値観が表れているとも言われています。
疲れたら休む。暑ければ無理をしない。そんな当たり前のことを、この国の人たちはとても自然に、そして堂々と実践しています。
スペイン南部で、あるレストランの店主が言っていた言葉が、今でも心に残っています。それは「僕らは午後は働かないよ。だって、暑いから」というものです。
