「タイムパフォーマンス」や「生産性」という言葉が、私たちの日常を支配しています。スケジュールに余白が生まれると、つい「時間を無駄にした」と罪悪感を抱いてしまう。それは、時間をお金に換算する癖がついているからかもしれません。本記事では、53歳で単身スペイン留学に挑んだRita氏の著書『自由で、明るく笑って過ごす スペイン流 贅沢な暮らし』(大和出版)より、スペイン人にとっての「何もしない時間」の価値をご紹介します。
「休むこと」の本当の意味
また、以前、友人夫妻の別宅に誘われて、海辺のマンションで1週間を過ごしたことがありました。この1週間、特別なことは何もしませんでした。朝はゆっくり起きて、近くのお店で買ったパンと果物で朝食をとり、海で体を冷やし、暑すぎる時間は木陰で読書、夕方は海岸を散歩。そして夜は、お酒を嗜みながら、ただ他愛もない話をする。
最初の数日間は、「こんなに何もしていなくて大丈夫なのだろうか」という不安が頭をよぎりました。以前の私なら、観光地を回ったり、何かしら「成果」を求めていたでしょう。しかし、友人たちは私のそんな心配をよそに、本当にリラックスして時間を過ごしていました。
徐々に、私の中で何かが変わり始めました。朝、目覚めたときの清々しさが違う。夕陽を見ながら感じる感動が深い。友人たちとの会話が、より豊かになっている。そんな時間が、心の奥からじんわりと満たされるような「新鮮な幸福感」をもたらしてくれました。
スペインでは、「休むこと」も「くつろぐこと」も、「自分を整えるための時間」として、大切にされています。予定が詰まっていない日を、むしろ「贅沢な1日」として楽しむ人たちの姿を見て、私は初めて「空白の時間」をポジティブに捉えられるようになりました。
今まで、忙しくしていることが目的化してしまい、本来の目標や幸福を見失っていたのかもしれません。「自分を休ませること」は何かを諦めることではなく、“もっと自分らしく生きるための隙間”なのかもしれません。私は、この「隙間」や「余白」があることで、人生により多くの色彩と深みが生まれると思っています。
スペインの人たちは、この余白を恐れず、むしろ、その中にこそ人生の本当の豊かさがあることを知っています。そして、完璧にスケジュールを埋めることよりも、自分の心と体の声に耳を傾ける時間を持つことのほうが、はるかに価値があると考えているのです。
Rita