節約や貯蓄こそが、先行き不安な老後を送るための唯一の正解だと、私たちはつい考えがちです。しかし、もしその我慢の先にあるのが、心のときめきを失った毎日だとしたら、それは本当の豊かさと言えるのでしょうか。本記事では、53歳で単身スペイン留学に挑んだRita氏の著書『自由で、明るく笑って過ごす スペイン流 贅沢な暮らし』(大和出版)より、スペインの何気ない日常の中で見つけた、お金では決して買うことのできない「人生の豊かさ」をご紹介します。
もう、心からワクワクしない…子育て・離婚を経て、心機一転53歳で単身スペイン留学。やっと手放せた「こうあるべき」という“見えない重荷”
「なんとなくの我慢」なんていらなかった
日本にいた頃の私は、「まあまあ普通」の毎日を送っていたと思います。
離婚後、子どもたちも独立し、このままひとりで生きていけばいいんだと思っていました。人間関係にも恵まれていたし、やり甲斐のある仕事もあり、特に大きな嬉しさもないけど、大きな不満もない。でも、ふと気づくと心のどこかがずっとぬるま湯に浸かったままで、何かを熱く語ることも、心からワクワクすることもなくなっていたのです。
そんな私に、突然のスペイン生活。右も左もわからない異国の地で、まず驚いたのは「ごはんを食べるだけで、こんなに笑う人たちがいるのか!」ということ。
“ぬるま湯”を変えてくれたスペイン人
朝のバルではコーヒー片手に熱弁している男性たち。夕方のスーパーでは「今日の夕食は何にする?」と真剣に語り合う女性たち。みんな、食べながら、しゃべって、笑って、全力で“今”を生きている。
はじめのうちは、そのテンションに圧倒されてしまい、「この中にたったひとり、日本人……。私、完全に浮いてるかも」と内心ビクビク。でも、ある日、ふと気づいたのです。スペインの人たちは、私がスペイン語を間違えようが、発音がメチャクチャだろうが、「よく来たね!」「それで、今日何食べたの?」と笑って受け入れてくれる。それは、完璧であることより、「一緒に笑えるかどうか」を大事にしている文化なのだと、体感しました。
そこから少しずつ、自分の殻が外れていきました。レストランでの「ひとりごはん」も平気になり、知らないおじいさんとの井戸端トークができるようになり、市場で「そのチーズ、美味しいよ」と教えてもらって買ってみる。そんな何気ない瞬間が、私の中の“ぬるま湯”を徐々に変えてくれたのです。
スペインに来て、特別なことをしているわけではありません。ただ、食べて、笑って、時には泣いて、また食べて。そんな当たり前の積み重ねの中で、自分でも気づかないうちに背負っていた“なんとなくの我慢”から、少しずつ解き放たれていったような気がしています。
「こうしなきゃ」「こうあるべき」に縛られず、「今日も楽しかった」と思える夜を増やすこと。そんな小さな自由を手に入れたことが、何よりの宝物です。
Rita